美容小売業界に訪れた「新しい日常」
美容業界はこれまで、不景気に強いとの定評があった。2008年のリーマン・ショックに端を発する世界金融危機の際も、美容業界は苦境を耐え抜き、この定評を裏付けた。だが今回は、ロレアルのような大手グループでさえ、先日発表された2020年上半期の売上が前年同期比でマイナス11.7%の130億7000万ユーロと、ふるわない状況が続いている。世界の多くの地域で店舗が閉鎖に追い込まれ、実物を手にとってのショッピングに制約が多い状況のもとで、ロレアルも、中国などの回復傾向にあるアジア市場に頼らざるを得なかった。
マスクを着用する機会が増えた消費者は、メイクアップなどの、見た目を整えるアイテムの購入を控えている。だがその一方で、セルフケアを重視する外出自粛期間のトレンドを反映して、スキンケア製品は好調だ。とはいえ、体に直接つけるという商品の性質上、特に今の時期は、衛生という要素が非常に重要になる。言うまでもなく、感染防止措置により、製品の試用や対面でのカウンセリングには支障が出ており、これがメイクアップアイテムやスキンケア製品の購入額の減少に直結している。
とはいえ、このような逆境に対抗するため、さまざまなプロジェクトやソリューションを打ち出した企業もある。例えば、英国に本拠を置くドラッグストアチェーンのブーツ(Boots)は、店舗で製品を試用できない事情を考慮し、化粧品について柔軟な返品ポリシーを採用した。また、香港の大手商社リー&フォン(Li & Fung)傘下のMeiyumeは、製品が汚れないよう、手で触れることなく試用できるよう工夫したパッケージやアプリケーターを導入している。
バーチャルストアでできることには限界があり、実店舗でのブランド体験などを完全に再現するものではないが、バーチャルカウンセリングの助けを得ることで、その人に即したサービスを提供する試みは続けられている。バーチャルショッピングアプリのヒーロー(Hero)では、店舗販売員を支援する同社プラットフォームを活用する小売業者が増加している。エスティローダー(Estee Laude)傘下のデシエム(Deciem)グループとの提携で始められたプロジェクトでは、立ち上げ早々に2万件以上の顧客からの問い合わせにチャットで対応し、うち1500件以上が通販での注文につながったという。
当然ながら、小売業者のデジタル導入計画やイノベーションはこれまで、実店舗やオフラインでの接客と並行する形で加速してきた。今後は、ARが導入され、人工知能(AI)の精度が上がって、買い物客の新たな発見を後押しすることが見込まれており、デジタル技術を使ったソリューションに頼る度合いは増していくだろう。
消費者が、リアルでの接触が多いサービスに警戒を示す傾向は今後も続く可能性がある。時が経つにつれて、消費者が自宅でのセルフケアに慣れてくれば、オムニチャネル体験を補う形で、バーチャル環境でのメイクアップ・カウンセリングや、手で触れなくて済むサンプルの提供などが進むだろう。