反抗期。疲れた私を笑い泣きさせた『息子の「む」』

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ウェブメディアgrapeでは2019年にエッセイコンテスト『grape Award 2019』を開催。『心に響く』をテーマにした多くのエッセイが集まった。

今回はそんな心に響くエッセイの中から、最優秀賞に選ばれた『息子の「む」』を紹介する。


「うざい、でていけ」


中学1年生の息子が反抗期である。

徐々に反抗期になった気もするし、いきなりなってしまった気もする。最後にいつまともに話をしたかも思い出せなくなってしまった。

久しぶりに声を聞いたと思ったら、変声期特有のガラガラ声で驚いたくらいだ。

彼を取り巻く環境も変わった。

ベッドサイドにいつも陣取っていたオバケを追い返す守り神のぬいぐるみたちは、いつの間にかスマホと充電器に代わった。

「こうして子供時代が終わっていくんだな」と寂しい気分になったものだ。

そんな中でも私が一番辛かったのは、息子から初めて「うざい、でていけ」と言われた日のことである。この言葉を発端に、息子の暴言は歯止めが利かなくなってしまった。

暴言はエスカレートするし、何を聞いても無視を決め込む。シングルマザーで父親の役目、母親の役目を同時にしてきた私には限界が見えはじめていた。


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たまらず母や友達に相談しても、「大変だけど、反抗期の男の子はそんなもんよ」と言われるばかり。「反抗期は正常に育っている証拠よ」と言われても、私の心はとても傷つく毎日を送っているのである。

ある1冊の本。2人だけの記憶


こんな日々が続いたある日、子供時代のものを一掃する時期なのかもしれないと思い、一大決心をして思い出のある物たちを捨てることに決めた。

可愛がっていたぬいぐるみ、ブロックのおもちゃ、一緒に見つけた石や四つ葉のクローバーなど、沢山の思い出の物たち。

本が大好きだった私は、よく読み聞かせもしていた。しかし、もう何年間も読まれていない思い出深い本を寄付することに決め、どんどん段ボール箱に入れていった。

『とりかえっこ』。

この本は一体何回読んだだろう。息子が大好きで、セリフを覚えてたくさん笑いあった思い出の本。とても迷ったけど、この本も寄付箱の中に入れた。

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その夜、息子が箱の中からその本を見つけ出し「これ、どうするの?」と聞いてきた。

私が「もう読まないから、寄付するんだよ」と答えると、

「む」

と、一言返ってきた。

これは物語の最後にカメさんが言うセリフで、息子はそれを覚えていたのだ。それから、二人で「む」ともう一回言って笑った。久しぶりに息子の笑った顔を見た。


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このことがあってから、息子はなにかあると「む」と一言返事を返すようになった。

小さい頃、可愛がって愛されている記憶が、彼の中にある事が感じられて嬉しかった。

そうだよ、私。すっごく頑張って愛して子育てしてきたよ。ちゃんと、子供は育っているよ。大丈夫だよ。

やっと、そう思えることができて、ひさしぶりにわんわんと泣いた。

ウェブメディア「grape」から転載

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