愛読書は『会社四季報』 太田雄貴が挑む「マイナー競技のマネタイズ」戦略

日本フェンシング協会会長 太田雄貴

31歳の若さで日本フェンシング協会の会長に抜擢された五輪メダリスト。競技人口 わずか6000人のフェンシングを「稼げるコンテンツ」にすると断言し、就任後の意欲的な改革で全日本選手権チケットは2日で完売、観客動員数を10倍に伸ばした。

スポーツ界きってのイノベーターが見つめる業界の現在地、そして未来とは──。

8月25日発売のForbes JAPAN10月号では、新風を巻き起こす「スポーツビジネス」を大特集。誌面で展開する太田雄貴へのロングインタビューを、一部抜粋でお届けする。


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2020年夏、大勢の観客が熱狂していたはずの国立競技場に、強い日差しだけが降り注ぐ。こうした時代にアマチュアスポーツ、とりわけ、メジャーとは言えない競技はビジネスたり得るのか。

太田雄貴は「大事なのは、2月よりも前と比べないこと」と現実を直視する。

「全日本選手権のセールスをしていても、実態は厳しいです。昨年までだったら『提案』に対して『ぜひ!』だったところでも、今は『考えます』ですから。『考えます』イコール、ダメということ。当然っちゃ当然ですよね。めげませんけど」

最近の愛読書は『会社四季報』だ。

「見ると感動します。まだ、こんなに知らない会社があるって。僕らが営業に行っているといっても、全然、行っていないということですから」

まるで経営者だ。


2018年の全日本選手権。(Shugo Takemi/Japan Fencing Federation)

2008年、北京五輪のフェンシング男子フルーレ個人で銀メダルを獲得し、一躍有名になったアスリートが、日本フェンシング協会の会長になって丸3年がたった。組織のトップに立ってからの改革は、高く評価されている。

大会運営も既存の枠組みを超えた。わかりにくいとされる判定をLEDの点滅で補助し、選手や審判の心拍数を大型ディスプレイに表示し、ライブDJを起用するなど、「大会」というより「ショー」と呼ぶにふさわしい演出を盛り込んだ。会場には演劇やライブに使われる場を選び、そこでの戦いの様子はネットで生中継。

工夫を凝らした結果、入場料を値上げしたにもかかわらず、2017年、全日本選手権の観客動員数は前年比で約10倍となった。


試合中の選手の心拍数を計測して可視化するという試みも。防具で表情を見られないことを逆手に取ったアイデアだ。(Shugo Takemi/Japan Fencing Federation)

「基本的には、うまくいっているところを真似てきました。お客さんを球場に入れることを前提にビジネスを設計してきたプロ野球などを見て、すでにほかにあるものを、フェンシングなりに当てはめただけです」

模倣しただけではない。そうしなければ生き残れないという予見があった。

「日本が初めてオリンピックに参加したのは1912年です。その後、テレビが普及して衛星回線を使ってリアルタイムに映像が届くようになって、オリンピックを実際に見る人の数が増えました。だから、オリンピックは発展してきたのだと思います。そう考えると、僕らみたいなマイナーなスポーツがどうやって勝ち筋を見つけていくか? “目(の数)”を集めるしかないと考えました。ただ、自力で目を集められる競技は限られています。日本では、野球、サッカー。あとはフィギュアスケート。それ以外は代表戦でもない限り、こちらから、多くの目があるところに出ていかないといけない」
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文=片瀬京子 写真=佐々木康

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