ビジネス

2020.08.26

インフルエンサー事務所の戦国時代を勝ち抜く、ホリプロ子会社の3つの戦略

ホリプロデジタルエンターテインメントの代表取締役社長の鈴木秀(右)と黄未来(左)


戦略3:広告に依存しない「インフルエンサービジネス」の形


黄:他の事務所は、そういう教育が必要だとわかっていても、なかなかできないですよね。投資コストを厚くすればするほど、利益率が下がるからだと思います。その点は、どのような工夫をされていますか?

鈴木:そもそも、ホリプロは経営の自由度を高めるために、経営陣が株式公開買い付けを行って、上場を廃止しました。そういう背景もあって、短期的な利益の追及よりも、良質なエンタメの創出を重視している風土があると思います。

黄:なるほど!もしかすると、多くのインフルエンサー事務所は、VC(ベンチャーキャピタル)が入ったベンチャーや上場企業の子会社ですか?

質問する黄

鈴木:そうなんです。僕は今断言できますが、ホリプロデジタルは上場しません。ホリプロも、僕に対して“利益”という単語を使ってきたことはなくて、むしろ新しい文化を創れば、利益は後からついてくる、と。

黄:とはいえ、今後の経営を考えた時、新規事業のホリプロデジタルに対しては、次世代を支える幹になってほしいという声も、社内にはあると思います。この事業が将来ハネると説得するためにも、何か戦略はあるのですか?

鈴木:タレントの事業を切り離した子会社を作ろうと思っています。みんな自分の会社で自己実現して、ホリプロデジタルには利益配当でお金が入ってきます。タレントが増えれば、タレントの数だけ子会社も増えて、利益率も上がっていきます。

黄:子会社化するのとしないのとでは、何が違うのですか?

鈴木:子会社化すると、タレントが経営者マインドを持つようになります。そして、タレントが儲かって初めて、僕ら事務所も儲かる仕組みを作れます。その子会社の従業員はタレントひとりなので、僕らが出資します。その上で、教育経費は僕らが出しますが、売り上げは個人事務所なので、個人事務所には売りしかたたない状態です。そこから配当性向で、お金をもらいます。

黄:そういう仕組みだと、なぜ利益率が上がるのですか?

鈴木:事業もやるからです。クライアントさんは、タレントの起用に効果があるから、数百万円、数千万円を、何度も払うわけなので、逆にその事業をタレント自身がやってしまえば良いんです。

黄:なるほど。例えば、コスメプロデューサー・のぼりもえさんなら、大手化粧品メーカーの案件を受けるより、自分でコスメブランドを立ち上げた方が良いということですよね。専門性のあるタレント一人ひとりが、D2Cでプロダクトを持つ状態を作ることで、広告依存のビジネスから脱することができますもんね。

鈴木:はい。それに、事業経費は僕らが負担しますが、タレントには広告塔としての実績もあるので、ほぼ100%回収できる状態、つまり低リスクで子会社化できます。僕らが目指すのは、タレント型のVCのような形ですね。僕らが出資して、育成もしてあげることで、タレントにノーリスクで、影響力をお金に返させてあげられて、お互い良い関係を築けます。こうした広告に依存しない戦略の重要性は、新型コロナウイルスの感染拡大で、より強く感じています。
次ページ > ホリプロだからできること

構成=MAAKO 写真=西川節子

ForbesBrandVoice

人気記事