東大法学部から精神科医へ。臨床から「司法精神」に挑む

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──キャリア選択をする上で悩んだことはありますか?

後期研修を終えた後のキャリアパスには悩んでいますね。候補としては、大学院に進学して研究手法を学び、司法精神の分野へシフトしていけたらと思っています。そもそも司法精神とは、対象者への精神鑑定だけではなく、医療観察法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律)の運用実態の調査や研究などがあります。中でも私は、医療観察法の整備に携わりたいと思っています。

しかし、司法精神の大学院のミーティングに参加させていただいた時、参加されている先生方の圧倒的な知識量や、事例に対するするどい着眼点などのレベルの高さを実感しました。ですので、勉強をしていくことでこのレベルに本当に追いつけるのだろうか、という不安は常にありますね。

幻聴と闘う人たちを救いたい


──これまでの経験を経て、感じた課題はありますか?

まずは、先ほどお話した医療観察法についてです。現在の医療観察法は、対象者が1度この法律に乗ると、その先の処遇は決まってきてしまいます。例えば、入院処遇などが決定すると、そう簡単に退院はできません。まだ施行されてから10年ほどの若い法律のため、チェックしながら改良すべきところは改良する必要があると思っています。

他には、日本は精神疾患への偏見が強いということです。そもそも統合失調症などの病名すら知らない人が多いのが現状です。医師でも精神疾患の患者さんのことを差別的に言い表したり──。精神障害がある人を当たり前のように理解できる社会にすることが私の理想です。

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──今後の目標を教えてください。

まずは目の前の臨床に取り組み、精神科医としてのスキルを磨くことです。その先に、何かしらの形で司法精神に取り組みながら、同時に精神疾患の理解度向上にもつなげていきたいです。

中高生の時に疑問だった精神疾患を持つ人が見ている世界は、垣間見えてきました。それは、「怖い世界」。私が担当した統合失調症の患者さんは、ずっと悪口や自分を責めるような幻聴が聞こえると言う方が多いです。

そんな怖い世界で生きていて、自分の身を守るために法を犯してしまう、そこに責任があるのか──? 

その判断のためには、精神症状を正確に把握し、その行動の背景にある問題を見極めるスキルが精神科医として必要不可欠だと思います。今後も怖い世界で生きている人たちにとって、最良の結果になるように精神科医として研さんを積んでいきたいです。


小林玲美子
◎東京都出身。東京大学法学部卒業後、アパレル企業に2年間勤務、その後浜松医科大学へ入学。2016年卒業後、初期研修は千葉労災病院・千葉大学医学部附属病院を経て、現在は同病院 精神科専門研修プログラムに入局し、成田赤十字病院にて後期研修中。

*本稿は、医師たちに医療情報や医師の診療以外の活動を聞くウェブマガジン「coFFee doctors」からの転載である。

取材・文=coFFee doctors編集部

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