紛争地の症例を臨床研究へ ラガーマン出身外科医の決意

2004年11月、イラク戦争の様子(Getty Images)


残りの半年間は、アフリカで民間療法の研究に協力したり、ヨルダンの難民キャンプへ医療支援に行ったりしました。アフリカでは、現地の薬草による民間療法の研究のお手伝いをしていました。我々日本人が受けているような医療を受けられる人は、世界にはほんのわずか。それ以外の人のほとんどは、満足に医療を受けられず、薬草などを使った民間療法に頼らざるを得ないのが現実です。また、短い期間ではありましたが、台湾のNGO団体の活動に参加し、Zaatariキャンプというシリア難民の暮らすヨルダンの難民キャンプで1週間ほど医療活動を行いました。

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2018年1月、ヨルダンの難民キャンプの様子(Getty Images)

学生時代に心残りだったラグビーを納得いくまでプレーし、またアフリカやヨルダンで現場の経験をしてみて、改めて自分は外科医としてそういった現場に立とう、と再確認することができました。

「当たって砕ける卵」の側に立ちたい


──今後の展望を教えてください。

私の最終的な目標は、紛争地の症例をきちんとした臨床研究へ昇華させたいと思っています。そのためにまずは、紛争地の劣悪な環境であっても対応できる臨床力と、そしてそこでの症例を研究へ還元していける能力を、磨いていきたいです。私の理想の外科医は、オペができて病棟も見られて臨床研究もできること。そういった外科医が紛争地へ行くことは価値のあることだと思います。ですので、今は理想の外科医になるべく修練して、自分が役に立てると思ったタイミングでできるだけ早く現場に出たいと思っています。

──最後に、その原動力はどこからくるものなのでしょうか?

小説家の村上春樹さんがエルサレムで行ったスピーチでの言葉が近いかもしれません。その中で「高く、堅い壁と、それに当たって砕ける卵があれば、私は常に卵の側に立つ」という言葉があります。ここでは、壁とは爆弾やシステム、卵は非武装市民を指しています。自分も同じく、卵の側に立っていたいと思うのです。

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小説家、村上春樹(Getty Images)

世界は不平等で、理不尽な目に遭っている人がたくさんいます。その一方で、自分は恵まれた国でのうのうと生きているだけ。私はその現実から目を背けずに生きていきたいと思います。ですから、自分が納得のいく人生を送るために、そういった理不尽さに挑み続けたい。これが自分の原動力です。ラグビーで培ってきた身体的、精神的なタフさを生かし、これから戦傷外科医として活躍していきたいです。


野間口侑基◎兵庫県出身。2016年九州大学医学部卒業。2017年に湘南鎌倉総合病院の初期研修修了。その後はニュージーランドでのラグビー留学、アフリカでの民間療法の研究、ヨルダン難民キャンプで医療支援を経て、現在は同病院にて一般外科専門医研修中。

取材・文=coFFee doctors編集部

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