礼拝かコロナか。第2波を生んだ韓国「異色教会」祈りの裏事情

Chung Sung-Jun/Getty Images

韓国でも新型コロナウイルスの感染拡大が再び始まっている。韓国の1日あたりの新規感染者数は、8月前半は30~50人程度だったが、13日に約3週間ぶりに100人を超えた。21日には324人を記録するなど、21〜23日はそれぞれ300人台を記録した。韓国政府は19日からソウルなどの首都圏を対象に、室内50人以上、室外100人以上の集会を原則禁じ、クラブやカラオケなど感染の危険が高いと判断した12種類の施設運用を禁じた。韓国政府はこうした措置の対象範囲を23日から全国に拡大。ソウル市は24日から室内外を問わずマスク着用を義務化した。

今回の「感染第2波」の震源地とされているのが、16日に集団感染が明らかになったソウルにあるサラン第一教会だ。中央災難安全対策本部によれば、24日昼までに感染が明らかになった教会関係者は875人に上った。首都圏に住んでいない感染者も53人に上る。韓国では2月、大邱を拠点とした新興宗教団体「新天地イエス教会」で集団感染が発生したが、今回も教会が震源地になってしまった。

サラン第一教会はプロテスタント系で、新天地イエス教会ほど異端というわけではないが、教会を率いるチョン・グァンフン牧師の強烈な政治活動によって、「極右教会」というレッテルを貼られてきた。チョン牧師は朴槿恵前政権の熱烈な支持者で、朴槿恵前大統領を応援する太極旗集会を何度も主催してきた。2月末には不法な集会を主導したとして公職選挙法違反で逮捕・拘束されていたが、健康が悪化するなどしたために4月に保釈されていた。

ソウルにある500人規模の教会に通う韓国の知人によると、チョン牧師のことを「強烈な個性の持ち主で、嫌う人も多いが、保守が多い高齢層の一部に熱狂的な信者がいる」と語る。韓国では3月から5月にかけて教会での礼拝もオンラインになっていたが、第1波が落ち着いたことで、手洗いや検温などを徹底することを条件に礼拝が復活していた。

この知人は「信者が、保釈されたチョン牧師を熱狂的に迎えたため、身体的な接触が予想外に増えてしまったようだ」と語る。教会のそばに自宅がある知人によれば、サラン第一教会がある場所は再開発地区に指定されていた。立ち退きや再建築を巡る補助金額などで行政側と折り合わず、信者が抗議のために教会で合宿生活を送るなど、「3密」が心配される状況に陥っていたという。

チョン牧師は自身も感染が疑われていた状態のまま、日本統治からの独立を祝う光復節の15日、ソウル中心部の光化門で開かれた保守系集会に参加。集会は当初、500人規模とされていたが、全国から貸し切りバスを使って高齢者を中心にした市民が3000人から4000人程度集まったという。このため、韓国では集会参加者を起点にした第2次感染が全国に広がるのではないかと懸念する声が出ている。政府は19日の防疫強化措置のなかで、首都圏の教会に対し、教会を訪れての礼拝を禁じる措置を取った。23日には対象を全国の教会に拡大した。
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文=牧野愛博

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