過去の日常に戻らない。バルセロナ市「コロナ後の社会実験」

バルセロナ都市生態学庁ディレクター、ジョゼップ・ボイガス氏


今回のパンデミックによって、私達は今までとは異なる「非日常」を体験し、新しい気づきがあったことも確かです。例えば交通量の激減で大気汚染はかなり解消されました。パンデミックは過去の「日常」が持っていた潜在的な課題を洗いざらしました。その意味で、今は大きな社会的構造変革をもたらす、千載一遇のチャンスなのだと思います。今は、持続可能な社会にするための好機なのです。

都市=エコシステム 歯車全体の「面」を重視する


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バルセロナ市ゴシック地区(2018)(写真=鷲尾和彦)

鷲尾:バルセロナは都市を「エコシステム」として捉え、市民とその生活環境の質とのバランスを重視してきました。パンデミックの影響を受け、こうした都市理念やその都市デザインの方向性はどのように変わるでしょうか?

ジョゼップ・ボイガス氏:都市を多様性かつ複雑性が絡み合った生態系(エコシステム)として捉えるという発想は、歯車に例えるならば、一本の歯が複数組み合わさり、ひとつの大きな歯車として稼働するようなイメージです。そして、歯車の歯という「点」のみを考えるのではなく、歯車全体という「面」の調和を重視して、バルセロナでは常に都市デザインを考えてきました。

かつて、「都市」の概念とは、建造物や道路、広場など都市の外観、即ち「ハード」が中心でした。しかしその後、「都市」概念の中に、「環境」や「市民」という要素が加わり、ハードとの共生や調和が重要となってきたからです。

パンデミックの影響を受け、今後はモビリティ(移動性)、テレワーク、物理的距離の確保など新たな要因が加わり、近未来の都市デザインを考える必要があります。

産業のあり方も変わりますので、この影響を考える必要があります。バルセロナは観光都市でしたが、今後の観光産業の将来は全くの未知数です。観光産業はホテル、空港、鉄道、船舶など様々な産業が絡んでいます。今後、観光客が減少するのであれば、将来的な都市デザインにも当然大きな影響が生じます。今は観光客が激減している時期ですから、観光客に依存しない都市生態系を考え始める必要があるでしょう。もしかすると観光依存度が減ることで、再び工業化へベクトルが戻る可能性も否定できません。都市は複雑な要素が絡みあう生態系だとすれば、やはり今後の都市デザインの方向性はいまだ未知数としか言えません。

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バルセロナ市の古地図(写真=鷲尾和彦)
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