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「同じコースでも、ドライバーによって案内のやり方が異なるので、違った楽しみ方ができます。ディズニーランドのジャングルクルーズのようなイメージ。淡々とした会話の中でぼそっと怖いことを言ったり、面白おかしく話していたと思ったら急にガラッと怖くしてみたり。自分自身が怖がっているドライバーもいますよ(笑)」

心霊ツアーの担当ドライバーは、各エリアの営業所に所属する運転手から自己・他者推薦で選ばれる。中にはこの心霊ツアーのドライバーになりたくて、三和交通に入社した人もいるという。

武士の霊が多く漂う戦国城址や某踏切、そして、車の窓に手形がついたり、人影が横切るなどの怪奇現象が起きるという斎場に続くトンネルを巡っていく。そしてある角をゆっくり曲がると、暗闇に現れたのは古びた神社だった。お稲荷さまが並ぶ境内からは、無人であるにも関わらず時より奇妙な音がするという。

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真夜中に境内から奇妙な物音を聞いたタクシー運転手もいるとか……(イメージ/Getty Images)

「降りて写真を撮りますか?」と声をかけてもらったが、車内から窓を開けて撮影するのが精一杯。不気味な物音が聞こえる前に、次の心霊スポットに急ぐ。

冒頭で紹介した交通事故が多発するという某峠を超えると、タクシーはさらに舗装されていない真っ暗な細い道に迷い込んでいった。車内が大きく揺れるたびにドキッとする。どんなに不安定な細道でもずんずん進んでいってしまうテクニックは、流石タクシー運転手だ。

周るスポットは秘密なので全ては紹介できないのだが、全部で4箇所ほどを周ってちょっとヘトヘトになったあたりで、窓の外にジブリ映画に出てくるような田園風景が広がり始めた。本当に横浜市内かどうか思わず疑っていると、苅部さんの「さあ、ここは降りましょうか」の声を合図に、タクシーが停車。車内から心霊スポットを眺めるだけでも恐怖だというのに、ツアーには降車して自らの足で心霊現場に向かう体験も用意されているのだ。


周りには人の気配が全くない......(イメージ/Getty Images)

街灯もない場所を懐中電灯だけを頼りに恐る恐る歩みを進める。この池は、かつて子どもが足を滑らせ溺れてしまったことがあると言われているそうだ。しかも、溺れるような音に驚いて車で逃げようとすると、なぜかエンジンが掛からず、池の方からお経が聞こえてくるとか……。

真っ暗な中で、冷や汗で背中をぐっしょり湿らせたところで、今回の心霊ツアーは終了だ。最後はコースごとに指定された駅まで送り届けてくれるため、振り返らずに急いでタクシーに戻った。

御祓いのできる神社も紹介しますよ


乗り降りの際は、後部座席のドアは自動開閉ではなく、運転手自身が開けてくれる。恐怖体験の最中でも、三和交通のもてなしの精神が暖かく感じられた。接客や接遇は社内で特に厳しく執り行っていると広報部の和田茉璃奈さんは話す。

「お客様の多くが迎車を利用されることから、『選ばれるタクシー会社』になれるような接客を常に心がけています。普段の接客があるからこそ、このような突飛な企画も受け入れていただけるのかなと。夏が近づくと、『今年も心霊ツアーやりますか?』とお声掛けをいただくことも多いです」

駅に到着し、人の往来が多い様子に安堵しタクシーを降りると、肩のあたりに何かずんと重くのしかかる。きっと緊張が解けて疲労を感じているだけで、幽霊のせいでは決してないと信じたい。

「お身体に支障がありましたら、御祓いのできる神社をご紹介しますよ」

目的地は心霊スポットまでお願いします──。恐怖とおもてなしが詰まった三和交通の心霊タクシー。来年機会があればぜひ体験してほしい。

文=大竹初奈

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