──いまはUNDP本部があるニューヨークにお住まいですが、新型コロナウイルスで大変だったかと思います。国連での仕事の変化もあったのでしょうか。
ニューヨークは3月から6月までロックダウンが続き、その後も自宅勤務が続いています。UNDPが国連の新型コロナの中長期的な対策をリードすることになり、業務量は3倍近く増えましたが、通勤や出張がなくなった分、なんとかこなしています。
私は外務省に30年勤めてから国連に来ましたが、いまの仕事には大変やりがいを感じています。前例主義、下からの積み上げの単年度予算、といった枠から解き放たれて、「もっと新しいやり方はないのか」「何を変えれば、もっと革新的で、もっとインパクトをもたらすことができるのか」を考える毎日です。周りに多様な人々がいるのがおもしろいですね。自分では考えつかなかった発想をする人がいると、自分自身のフロンティアも大きく広がりました。忙しいですが、充実していて楽しいです。
──開発の総合商社とも呼ばれるUNDPは開発に関するあらゆることを担っています。岡井氏がトップを務める危機局はどのような部署でしょうか。
2015年にSDGs(持続可能な開発目標)が策定され、2030年までに達成する17の目標が打ち立てられました。SDGsの目標は相互が複雑に絡み合っており、個々の目標に対してそれぞれ取り組むのではなく、全体を見ながら集中領域を定め、多機関と連携して一番効率的かつ効果的な「賢い」開発を進める必要が高まりました。
2017年に着任したアヒム・シュタイナー総裁は世界を巡る情勢が大きく変わる中、UNDPが新しいニーズに的確に対応できる組織となるべくこれまでのあり方の刷新に着手しました。そうした流れを受け2018年に新しくできた危機局の局長に私が就任しました。もう一人の開発政策プログラム支援局長とともに、世界各地に配置されている開発の専門家のネットワークを駆使して、開発政策の中身や現場の支援方法などを考案、実践する政策集団を率いています。
我々が直面している開発課題は複雑化し、二人の局長の所掌も明白に切り分けられないことも多いのですが、危機局は、主に紛争や災害といったさまざまな危機に瀕している国、政府機能が脆弱で開発手法に特別な配慮を要する「脆弱国家」(編集注:OECDのカテゴリーで約60カ国・地域)が、危機やショックに耐えられるようにするための支援策を打ち出し、それぞれの国にあるUNDPの事務所でそれを実施するのを助けています。危機が起きた場合の緊急支援はもちろんのこと、危機を未然に防ぎ、危機に素早く対応し、復興につなげる、または脆弱性の軽減など、息の長い支援も扱います。
危機が起きてから、外部から緊急の人道支援をするのは分かりやすいかもしれません。しかし、国際機関やNGOの支援に頼りきるのではなく、本来はその国自身がしっかりと危機に対応し、保健、教育といった社会サービスを提供できることが望ましいのです。UNDPは、全ての国や人々がそういった能力を備えられるよう開発の手法で支援をしています。
紛争や災害などの危機は、そもそも格差や不平等、人々の不満や貧困問題、気候変動などが重層的に絡んでいます。SDGsの17の目標もそうですが、保健、教育、都市計画などさまざまな課題に対して別個に取り組むのではなく、ガバナンスや包摂的な社会といった分野横断的で他の目標の実現にも相乗効果をもたらす優先分野を割り出し、総合的な対策をその国の実情に合わせてテーラーメードで作る必要があります。