2002年に制定された「サーベンス・オクスリー法(SOX法)」を改正する外国企業説明責任法は5月に上院で可決され、下院での審議に移っている。下院でも可決され、ドナルド・トランプ大統領の署名によって成立すれば、米国に上場する外国企業は、この法律を順守するか、米国以外の市場に移るかの二者択一を迫られることになる。
中国株の投資家におなじみのアリババや新浪(シナ)、百度(バイドゥ)などを含む中国企業およそ200社もその対象となる。仮に中国企業約200社が米国で上場廃止になれば、合計で1兆ドル(約106兆円)にのぼる時価総額が消えることになる。
外国企業説明責任法は特定の国の企業を標的にするものではないものの、中国企業は法律の要件を満たすのが難しそうだ。中国には純粋に「民間」と言える企業がない以上、各社とも国家機密という問題が関わってくるからだ。大手テクノロジー企業はまだ回避できる余地があるかもしれないが、中国石油天然気(ペトロチャイナ)のような国有企業にはハードルが相当高いだろう。
外国企業説明責任法では、米国に上場する外国企業に「外国政府によって所有または支配されていないこと」の証明を義務づける。ただ、それより重要なのは、SOX法に基づいて設立された米国の公開会社会計監査委員会(PCAOB)が、上場企業の監査法人を3年連続で検査できなかった場合、その企業の株式を上場廃止にするという規定のほうかもしれない。
たとえば、ブラジルの国有石油会社ペトロブラスはこの法律を順守できるだろう。だが、中国国有のペトロチャイナはどうか。中国が国有企業に対する権利を主張した場合、順守は不可能となるに違いない。
中国企業は米政府の証券規制に従うか、それとも本国の、機密の金融情報に対する国家の権利に関する規則に従うかという、きわめて難しい選択を迫られるということだ。
アバディーン・スタンダード・インベストメンツでアジア株コーポレートガバナンス(企業統治)の責任者を務めるデヴィッド・スミスは、外国企業説明責任法が成立した場合、米国で上場している中国企業の多くは中国本土か香港で再上場することになりそうだと話す。
また多国籍企業の場合は中国とつながりが深い事業を行ったり、中国でブランドの認知度が高かったりする子会社などを中国本土で上場させるかもしれないとも予想。こうした動きは「今すぐではないにせよ、いずれ現実味を帯びてくる」とみている。