「ファンドマネージャーは、事実という点と点を結びつけ、次に起こりうる相場変動のシナリオを予想するプロだ。実は、作家がやるべき仕事もほとんど同じ。事実の点と点をフィクションで繋いで、ストーリーを紡ぎ出していく」
そう語る波多野は、これまで『銭の戦争』シリーズや『メガバンク』シリーズ、『ダブルエージェント 明智光秀』など、多くのヒット作を生み出してきた。
「いま」を見つめて「現象」をあぶり出し「未来」を予測し続けてきた波多野には、いったいどんな未来が見えているのか。
より「いま」とリンクできる連載という形を生かして、小説の中のあるフレーズを抜き出し読み解いていく「クオート(quotes)」シリーズを始動する。
全人類が奴隷
今回注目するのは、5章第2話「地球(ガイア)の予言者」(Forbes JAPAN 8・9月合併号)の次の部分だ。
“全人類が奴隷となっている未来のビジョン、辰野さんが見たという……人々を額(ぬか)づかせている女性とはどんな人なのですか?”
この物語は、古代中国を生きる荘周(そうしゅう)、恵施(けいし)、孔丘(こうきゅう)と意識を同期できる特殊能力を持った3兄妹を中心に展開する。この辰野怜(たつの れい)、明神真(みょうじん まこと)、高階瑠璃(たかしな るり)は、量子コンピューターを操って全人類の支配を目論む謎の資産家・運天亜沙美(うんてん あさみ)と対決しようとしていた。このセリフは、瑠璃が怜に向かって訊ねたものだ。
怜は、何もない世界=枢(とぼそ)と呼ばれる異次元空間に意識が迷い込んだとき、未来のビジョンを見たという。そこではある女性が人々を従えており、「全人類が奴隷」となっていた──という場面だ。ここからは、この言葉の真意を波多野自身の言葉で語ってもらおう。
「人間の思念」とは何か
「全人類が奴隷」という現象は、いままさに起きていることだ。私たちの生活はAIに支配され、心拍数、歩いた歩数、移動した距離、睡眠の質までが24時間モニターされている。私は「進化」だと前向きに捉えられているこの状態が、本当はとても怖いものであると伝えたくて、この「奴隷」という表現を選んだ。
いったい何がそんなに怖いのか。それは、我々が無邪気に頼り切っているAIが、「人間の思念」の影響を受けて暴走する可能性が示されたことに他ならない。この思念とはつまり、テレパシーや超能力と呼ばれる得体の知れない力のことでもあるが、最新の量子力学の視点から考えてみれば、ほぼ確実に「ある」と説明できる段階にきている。
ファンドマネージャーだったスーパーリアリストの私から「超能力」という言葉が出たことに驚く人もいるだろうが、人間の思念がコンピューターに悪影響を及ぼす危険性があるのは間違いない。そして、また逆も然りだ。