ビジネス

2020.08.27 10:00

キーワードは共感、ニューノーマルの課題をデザインの力で解決する3つの好例

寄り添うデザインとアイデアは心の穴を埋めてくれる/イラスト:ShutterStock.com

寄り添うデザインとアイデアは心の穴を埋めてくれる/イラスト:ShutterStock.com

新型コロナウイルスにともなう緊急事態宣言が解除されて以降、「新しい生活様式」が提唱されているように、今後も長期的な視野のもと、我々は経済活動と感染拡大防止の間の繊細なバランスを保ちながら行動することが求められている。

新しい生活様式実践例の図表
「新しい生活様式」における感染拡大を防ぐための基本の他、日常生活における具体的項目として、買い物、食事、働き方など多岐にわたって実践例が挙げられている。厚生労働省公表の「新しい生活様式」より作成。

人同士の接触機会を減らすには限界がある


こうした新しい生活様式の提言に伴い、それを具体的に実践するために各自治体からガイドラインが発表されている。リモートワークや手洗いの徹底など、中には既に多くの人にとって習慣として根付き始めているかも知れない。

しかし今後これを実行していく上で、我々を悩ませるであろう項目は、身体的距離の確保についてだ。特に課題となるのは、人同士の接する機会を減らすことには限界があること。そして接触が避けられない場面で、周囲との距離感を常に意識しながら行動しなければいけないということだ。

自室で過ごす時間が圧倒的に増えても、特定の場所に行かなければ進められない仕事や学習はまだ多く、身体と気持ちのリフレッシュのためには屋外空間で過ごす時間をゼロにはできない。

また、飲食店やスーパーの買い物は対面で行わなければならないところが多く、デリバリーの機会を増やしたとしても、売り手・運び手・買い手の間には人同士の接点が介在している。これらは自粛期間において多くの人が実感していることだろう。

身体的距離に関する生活様式は、我々の日常生活に特に関係してくる制約だ。これからしばらくは心のどこかで常に窮屈さを感じながら生きなければならないことになる。

人と人の間にそっと介在することで新たな体験を作るデザインたち


このような状況で、企業には何ができるのだろうか。

従来の生活(コロナ前)から「新しい生活様式」への移行は簡単なことではない。行動規制の緩和によって人と人が接する機会が増える状況でも、感染拡大を防ぐ行動を選択していかなければならない。

しかしこうしたなか、人と人との間にそっと介在することで、人の緊張を和らげたり、互いを少しでもポジティブな気持ちにさせてくれるデザインが世界中で生まれている。我々の抱える課題を解決し、人と人の間に新たな関係性を作りながら今までにない喜びや体験を生み出していく、そんなデザインがある。

本稿ではそれらを「安心と喜びを作る体験のデザイン」として考察し、人々が新しい生活様式をより良く生きるために、企業や公共サービスが提供すべきことのヒントを探ってみたい。

1. 装着したままでも表情を届けられるマスク


1つ目は、コロナ禍において全ての生活者の必需品となったマスクに関するデザインだ。

「新しい生活様式」では、外で人に対面する際には、互いにマスクをしなければならない。しかし、人に会うときは、何かしら用件があるもの。

言葉数を最小限にしてやりとり済ませようとするのは互いに良い気がしないし、かといってマスクを外すのもそもそもの飛沫感染を防ぐというマスクの意味がなくなってしまう。

マスクをしているとコミュニケーションがとりづらい。そんなモヤモヤを解消してくれるのが「相手の表情や口の動きが見えるマスク」だ。口の部分に透明な素材を使うことで、マスクを付けた状態でも相手の表情や口の動きが見て分かる。

アメリカの大学生がこのマスク開発のために実施したクラウドファンディングプロジェクトでは、3387ドル(約37万円)の資金が集まった。

口の動きがわかるマスク
一部に透明なパーツを使ったマスクは以前から販売されていたが、マスク品薄の影響を受けて満足に流通しない中でクラウドファンディングが実施され、注目を集めた。

このマスク誕生のきっかけは、聴覚障害者は相手の口の動きが見えないと会話が困難になるということに着目したことだという。これまで私たちが当たり前のように使っていた不透明なマスクは、日常の会話に困難を抱える人々にとっての貴重な情報を遮断してしまっていたのだ。
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文=Yuma Mitsui(btrax)

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