ビール由来のジンは、腕のいい人材によって生み出された。筆者は取材中にサンプルを舐めさせていただいたが、率直に「うまい!」という言葉が出た。それは山本の言うボタニカルがしっかり効いていて、木質感というか、香ばしさがまずそこにあった。コンパウンド・ジンとしてのジュニパー・ベリーは森の雰囲気もあり、おどろくほど余韻が残る。まるでウイスキーのような感想になってしまったが、これがジンなのか。
「香ばしさはまぎれもなくビール由来の名残ですね。バドワイザーがブナの素地を持つ事も由来しているでしょう。後味のレモンピールとの相性も抜群です」と大倉が説明してくれた。
そして驚くのが「色」だ。ジンは蒸留酒であり、そのため一般的なイメージは、スピリッツ=無色になる。この色はなんだ?
「蒸留酒は、最後の仕上げにアルコール度数を調整するために加水します。今回、この加水に一部、ビールを使いました。色のつく理由のひとつがそれです。それから、蒸留後に浸漬したジュニパー・ベリーも、うまくビールのような色を出してくれました。もちろん、これらは言うほど簡単ではありません。味も風味もバランスしなければなりませんから」
山本の言葉に驚きつつ、商品として完成した薄茶色のジンを見てバドワイザーらしさが完結したことを実感した。
メインストリームへの想い
ひとつ大きな疑問がある。ここまでの完成度を誇るならば、これは最初からビール由来のビア・ジンとして成立しているためバドワイザーでなくても良いのではないか? 山本は言う。
「たしかに、できるできないで言えばできます。ただ、今回は、困難からの再生、そしてエシカルな飲み物をビール業界で初めてバドワイザーさんが行ったという意義は大きいと思うのです。ビールがないとできないですし、バドワイザーさんの風味あるビールという個性も重要でした。この事例を追いかける形で今後出てくるかもしれませんね」
島田は当事者としての想いを話してくれた。
「バドワイザーはカルチャーと深いつながりがあります。アーティストやライブハウスの方たちがコロナ禍で厳しい状況にある中、ともに歩んできたカルチャーをどうサポートするかというテーマ(*)がありました。ここに今回のビア・ジンのプロジェクトが重なったのです。再生されたお酒と再生を目指すカルチャーという点では、バドワイザー から生まれたビア・ジンに意味があるのだと思います」
*バドワイザーは『RE:CONNECT』というキャンペーンを実施し、実施予定だった広告費などの多くを充て、今回の商品の売り上げの一部とともにアーチストやエンタテインメント施設などカルチャーシーンへ還元する。