「REVIVE(リバイブ)」=再生と名付けられたそれは、商品名というよりも、幾つもの想いを集約したアルバムタイトルのようだ。8月に受注を行ない、9月から出荷予定だという。
この3社はいずれも酒類業界のいわばライバル企業だ。未曾有の困難に直面する酒類業界にあって協力関係は想像に難くないが、このジンは特別なもののようだ。アルコールを気化せんばかりの熱量を持つ3人に話を聞いた。
連鎖反応でつながった、それぞれの強み
きっかけはABIからの依頼だった。エシカル・スピリッツに、ビールの在庫の相談を持ちかけた。
「コロナ禍によるビール販売の不振で、約2万リットルの余剰在庫が見込まれる状況がありました。緊急事態宣言の頃のちょうど3月、4月。ここから夏へ向けて在庫が増える時期でもありました。輸入業は細やかな製造調整がつきにくく、一般的な350ml缶に換算して5万7000本がこのままでは最終的に破棄されることになります。その現状に、何か可能性を見出せないかと相談したのです」
Anheuser-Busch InBev マーケティングディレクター 島田隆広
ふたりは旧知の間柄で、お互いの強みを理解している。簡単には解決し難いこの問題をそれぞれの事業と掛け合わせようと考えた。山本は言う。
「エシカル・スピリッツはもともと再生をテーマに酒粕をジンに変える取り組みをしています。個体の酒粕から液体のビールへと対象が変わっても思想は同じなので、個性あるバドワイザーのテイストを生かした新しい命が生み出せるのではないかと考えたのです」
では、実際に蒸留してくれるのは誰か。こちらも山本の古い知人である月桂冠の大倉に持ちかけた。
「私は月桂冠では蔵元(オーナー)なので、営業部門を見ながらも社内で自由に動ける立場でした。蒸留を行う職人さんとの橋渡し役です。京都のいち酒造メーカーだった創業の頃から、新しいこと、イノベーションを生むことを考える素地のある企業でしたので、日本酒メーカーがやったことのない“ビールからの蒸留”に挑戦心はかき立てられましたね」
人のつながりがいかに大事かがよくわかるが、ポイントは、同業他社であるため話せばそれが何かがわかるということだけではなく、この難問に「新しく挑戦できる課題」というフックが存在したことだろう。
かくして3社は繋がるのだが、世界的に見ても、液体で、且つ6%ほどしかないアルコール度数のビールから蒸留酒をつくるビア・ジンの例は商業ベースではほぼない。2万リットルものビールをどう作り替えていくのか。