日本人で、その栄誉を受けた唯一の醸造家がいる。カリフォルニアのソノマに拠点を持つ、フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリー(Freeman Vineyard & Winery)のオーナーであり醸造家である、フリーマン・聰子(あきこ)氏だ。2015年、オバマ元大統領が安倍首相を招待した晩餐会で、フリーマンのシャルドネ「涼風」が選ばれ、脚光を浴びた。
今回は、あきこさんが夫のケンさんと二人三脚で運営するフリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーを紹介したい。
運命の出会いから醸造家の道へ
物語の始まりは、オーナー夫妻のケンさんとあきこさんの出会いまで遡る。舞台は1985年のニューヨーク。当時、美術史を学ぶために留学中だったあきこさんは、友人の誘いで出席したパーティーで、ハリケーンによる悪天候でヨットの旅が中止となり、予定外にこのパーティーに来ていたケンさんと運命的な出会いをする。当時、二人とも大学生だった。
その後、お付き合いを始め、結婚に至るが、ケンさんが長年抱いていた「ワインを造りたい」という夢の実現のため、2001年に、カリフォルニアのソノマでワイナリーを買い取った。こうしてフリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーが誕生した。
あきこさんは、その時をこう振り返る。「もともとワインを飲むのは好きでしたが、自分がワイン造りをするとは思ってもいませんでした。でも、やってみたら好きだった。後から発見した形ですが、心から打ち込めることが見つかり、とても運が良かったです」
エレガントなワインが造れる場所を探し求めて
フリーマンは、ナパの西側に位置するソノマのセバストポル(Sebastopol)を拠点とする。ソノマは広大なエリアで、多様な気候や土壌がある。それにより、植えられているブドウ品種も多様で、場所によって、同じ品種でも育つブドウの個性も大きく変わる。
その中でも寒流が流れる太平洋に近く、海から発生する霧の通り道となる冷涼なスポットを選ぶと、エレガントで抑制されたスタイルを表現することができる。
そして、実際にこの地を訪れると実感するのが、昼夜の寒暖差だ。日中は日差しが強く、半袖でも汗ばむくらいであっても、夜から朝方にかけては、厚手のジャケットが必要なほど気温が下がる。カリフォルニアでは、この一日の激しい寒暖差がブドウの過熟を防ぎ、酸が下がるのを抑え、高品質のブドウが育つ重要なポイントとなる。
あきこさんは元々ブルゴーニュのワインが好きで、自身もそのようなワインを造りたいと考えていた。ワイナリーを始めると決めてから、エレガントなワインが出来る場所を3年間かけて探しまわり、今の場所を見つけたのだ。