一つの原因として、直近1年の営業利益の成長率が、27%(1Q), 35%(2Q), 26%(3Q)と20%超だったレベルから、一気に今四半期が8%へと急下落したことが考えられます。ただ、売上高が上昇しているのにも関わらず、営業利益成長率が低下するのはどうしてでしょうか?クイズのようですね。
改めて、マイクロソフトのビジネス3つを見ていくと、その一つであるアジュールをはじめとするインテリジェントクラウド部門の売上鈍化が理由として挙げられます。
すでに説明をしましたが、最近のマイクロソフトの好業績の裏には、アジュールをはじめとするインテリジェントクラウド部門の高い成長率が大きく貢献しています。しかしながら、このコロナ禍で営業利益率が相対的に低いPCやXboxなどを販売するパーソナルコンピューティング部門の売上が上昇したことで全体の営業利益の成長率を押し下げてしまったわけです。
ただし、これは今後インテリジェントクラウド部門の売上が縮小していくという意味ではありません。調査会社のIDCでは今後のクラウドビジネスはさらに拡大していくと予想しており、引き続きマイクロソフトの業績にとって大切なビジネスといってよいでしょう。
最後に、最近話題になっているマイクロソフトのTikTokの買収について簡単に触れていきます。ご存じの通り、すでにマイクロソフトはTikTokの買収に向けて交渉を始めています。
こちらはマイクロソフトの戦略というより、米国の安全保障の観点からマイクロソフトが最後に残ったという印象です。FacebookのようなSNSは、シナジーの観点からみてもTikTokは絶好の買収対象になります。しかし、Facebookは、つい先日米議会の公聴会で独占禁止法違反について追及を受けたばかり。他のGAFAも同様に公聴会に呼ばれており、買収元の候補として挙がることもありませんでした。
また、マイクロソフトは、米国国防総省のJEDIクラウド契約を勝ち取っています。米国の国防に関する情報管理システム構築がマイクロソフトに委任されるということと、今回のTikTokの米安全保障リスクとは切り離せる問題ではないでしょう。その意味では、マイクロソフトが適任という流れになります。
ただし、現在マイクロソフトが注力する企業向けビジネスに、個人を対象としたTikTokがマッチするかは未知数です。TikTokの利用者は主に若年層であり、今のマイクロソフトサービスユーザー(大人の高所得者層)とは異なるエリアへの新たな挑戦となることは間違いなさそうです。
もちろん、マイクロソフトが買収元候補になったから、TikTokの買収に至るかというと決してそうではありません。トランプ大統領は、TikTokの米国事業の切り離しを目的にしていますが、それが技術的・コスト的に無理であれば、マイクロソフトがTikTok買収を仕掛けることはできないでしょう。
『GAFAの決算書』
齋藤 浩史 /著