作業療法士であり、脳の機能を活かした人材開発を行う「ユークロニア」代表、菅原洋平氏に話を聞いた。
脳が疲れているのは、どんな時?
脳が疲れを感じるのは、目の前で起きている場面と脳の働きにミスマッチが起きている時です。
脳内では随時、何かに集中しているときに働く「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク」と、何もせずぼんやりしている時に働く「デフォルトモード・ネットワーク」というネットワークの切り替えが起きています。
例えば、人と会話をする時には、実行系ネットワーク、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークが働きます。会話を終えて目線を外したり、まばたきをしたりするときにデフォルトモード・ネットワークに切り替わり、会話の内容を頭の中でまとめて、次の話題に話を持っていくことが可能になります。
この脳内のネットワークの切り替えがスムーズにされていれば、脳の消費エネルギーが少なく済む。
ネットワークの切り替えがうまくいっていないと、例えば、一対一で会話をしているのに、話の内容とは関係のないことが頭に浮かんできて、そちらに考えが奪われ、話が全く入ってこなかったということが起きます。
聞いてはいるのですが、脳内ではデフォルトモード・ネットワークが働いてしまっているということです。こうした、場面と脳内のネットワークのミスマッチが続くと、疲労感が蓄積されていくのです。
在宅ワークの本当の課題
では、脳内のネットワークは何によって切り替えられるか。それは、体を動かす、いわゆるアクティビティです。
手を動かしているときや、話をしているときには、目の動きが変わります。会話中に人の顔を見ているときは、「焦点視」という一つの焦点を当てて目を使っている。焦点視を使っているときには、実行系ネットワークが働きます。
一方、会話中に考え事をするときは、外を見るなど、自然に目が動きますよね。これは「周辺視」といって、何かを見ているわけではなく、ぼんやりと周辺を見ている状態です。
周辺視が使われているときは、デフォルトモード・ネットワークが使われます。そこで会話中の考え事が整理されて、話をしようと目線を合わせると実行系ネットワークに切り替わるという訳です。
脳の指令で体が動くので、手作業をしている時には、ネットワークと目線のミスマッチが起こりません。ミスマッチが起きていれば、作業が成立しないからです。
しかし、ネットワークと目線のミスマッチが成立してしまうのが、自宅でのデスクワークです。ずっと画面を見続けて、焦点視ばかりを使うから、実行系ネットワークが働き続けます。休憩中にもスマホの画面を見ていると、焦点視ばかりが使われる。
こうして焦点視ばかり使い続けると、バランスを取るために、強制的に脳内のデフォルトモード・ネットワークに切り替えが起こってしまう。これを「ホメオスタシス」といいます。
指で画面をスクロールしているのに、頭に情報が入っていないことに気付かずにずっとスクロールをしてしまうなど、いざ振り返ってみると、何も得ていないということが起こるのです。