「最初はオファーを受けるべきか悩みましたが、企業のターンアラウンドに挑戦できるのは、率直にチャンスだとも感じました。また、ノーリツプレシジョンで中小メーカー復活の事例を作ることができれば、苦しんでいるものづくりの中小企業が元気になる契機になるのではないか、と思ったんです。自分自身の成長にもつながるのではないかと思い、話をいただいてから2カ月後、『ぜひやらせてほしい』と連絡しました」
2016年8月に副社長として経営に参画。2017年5月に社長に就任すると、星野の経営再建計画が動き出すこととなる。
フィルム現像機メーカーから「電動バイク」が生まれるまで
コンサルタント時代、オープンイノベーションの支援を行ってきた星野氏が最初に行った改革の1つが、スタートアップとの連携だった。
「弊社をはじめとした老舗メーカーにありがちなのが、全方位的な「一気通貫のものづくり体制」。ノーリツは創業期より、企画、設計、開発、製造、アフターサービスまで、すべて自社でおこなっていました。この体制は、作れば作るほど売れる市場の拡大期には強みとなりますが、写真需要が減少を続ける現状では、大きな負担にもなり得ます。
一方で、ファブレス経営が増えている現代において、一気通貫でものづくりができる弊社の環境は武器になるとも思っていたんです。前職でオープンイノベーション支援を行っていた知見から、ノーリツの工場をスタートアップに開放することで、新たな化学反応を起こすことができるのではないかと考えました」
そんなノーリツに熱量高く声をかけてきた企業が、同じく和歌山に拠点を構えるglafitだった。2017年9月に鳴海が創業した同社は、電動バイクをはじめとした「新しいモビリティ」を開発するスタートアップだ。
和歌山県で生まれ育ち、ノーリツの栄枯盛衰を見守っていた鳴海は「どうしてもノーリツさんとご一緒したかった」と語るが、2社の協業は決してすんなりとスタートしたわけではなかった。
「星野さんのおっしゃる通り、一気通貫でものづくりが行える会社は、和歌山にはノーリツしかありません。また、地元の大企業が衰退していくのは悲しいですし、せっかく構築した技術やオペレーションを失うことは、産業にとっても損失だと感じたんです。ノーリツさんの工場を使いたいと思いましたが、腰を据えて話せるまでには1年近くかかりました。初めに現場の方に話をしたときには、『(協業が)いまの業務よりおもしろいと思われると、既存事業から人が離れてしまうからやめてほしい』と言われたこともありました」と鳴海は当時を振り返る。
それに対して、「むしろ、そういう化学変化を期待していたんですが、鳴海さんに初めて出会ったのは、社長に就任して間もないころ。おもしろい若者がやってきたなと思ってはいましたが、まだ社員との意思疎通を図っている段階で、会社として新たな挑戦ができる段階にはありませんでした」と星野は言う。
しかし、「1年近く経ち、再び現れた鳴海さんと話をするなかで、小さいモビリティならいけるんじゃないかと」。初対面から1年、細かい話をはじめて1年、2社は2019年4月に資本業務提携を結んだ。
「オール和歌山」でのものづくり革新の挑戦が、ここからはじまった。