経済・社会

2020.08.20 07:30

新型コロナは、自治体の「記者会見」をどう変えたのか


そこで、神戸市の広報からウェブメディアに向けてライブ配信を案内。記者会見場には足を運ぶものだという常識をコロナが破壊したことで、38名のメディア関係者が視聴した。さらに、参加者と双方向でQ&Aやライブ投票、アンケートなどが実施できる「Slido」というウェブアプリも導入。記者が入力した質問に対して、会場から口頭で回答した。

このような会見を続けていると、TechCrunchやCNET JapanなどのITメディア、さらにこれまで自治体ネタに縁遠かった大手媒体にも、神戸市の取り組みがとり上げられるようになった。

クラシック音楽専門の記者に集まってほしい


そんななかで大きくなってきたのが、前述のフルートコンクールの会見を、これまでどおり市役所で行うことへの疑問だった。たしかに、いつものように会見すれば、地元の神戸新聞にはしっかり載せてもらえるだろう。しかし、全国紙には県内だけで配られる「地方面」の小さな記事にとどまると思われる。

これは、記者クラブの記者が、地方の支局や通信部に所属している場合が多いことが理由のようだ。地方部の記者は、今回のような話題を扱う文化部や科学部、経済部など、専門的な部署と隔たりがあると聞く。実際に、6月4日に行われた神戸市とマイクロソフト社との連携協定の記者会見を、知り合いのある全国紙の経済部の記者に案内したところ、「興味はあるのだが、市役所は地方部の担当なので足を運びにくい」と話していた。そして、文化部・経済部・科学部は、東京と大阪など、都市部に偏在している。

私はもちろん地元の人たちに知ってもらうのは大事だが、このニュースに関しては特に、国内だけでなく海外にも発信したいと思っていた。なぜなら、今回の神戸国際フルートコンクールの開催決定は、世界的な音楽コンクールがコロナ禍で次々と中止になるなか、「音楽の火を消さない」という大切なメッセージを持っていたからだ。

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会見場に配置された同時通訳ブース

できれば、こうした背景や現状を理解してくれるクラシック音楽の専門記者に、記事にしてもらうのがベストではないかと考えた。この思いが原動力となり、大阪の会場から完全オンラインで、という、神戸市としては初めての記者会見を実施できたのだった。

このかたちは、5年前なら技術的に実現しなかっただろう。通信速度の問題もあり、ZoomとYouTubeの連動もできなかった。だがよく考えると、いまや新聞社もウェブでの記事の出し方を重要視するようになった。

自治体としても、デジタル空間にうまく情報を出して、届けたい相手に積極的に届けねばならない。新しい情報発信を模索する、神戸の挑戦はまだまだ続く。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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