新型コロナは、自治体の「記者会見」をどう変えたのか

記者会見場にはZoomでの質疑対応と日英同時オンライン配信をする機材が並ぶ

地方自治体が行う「記者会見」は、通常、いつ何を発表するのかをファックスで各報道機関に伝え、当日集まった記者たちには、紙の説明資料が配られる。私たち神戸市も行ってきたこのスタイルは、ファックスの普及とともに1990年頃から定着し、約30年も続いているものだ。

いつも記者会見に参加するのは、新聞社やテレビ局で各自治体を担当する記者からなる「記者クラブ」のメンバー。主に新聞社の地方部などに所属しており、地域のニュースを伝える人たちだ。彼らは、会見での取材と、配付される「投げ込み」と呼ばれる発表資料から情報を得て、記事やニュース番組をつくるという流れだ。

ところが、今月の5日に行われた「神戸国際フルートコンクール」の開催を告げる神戸市の記者会見は、これまでにはないかたちで行われた。

メイン会場は大阪・梅田のグランフロント。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、ウェブ会議システムZoomで参加できるようにし、日英同時通訳も導入。海外の記者からの質問にも対応して、YouTubeで日英両方のライブ配信を誰でも見られるようにした。

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Zoomで質問を受けてその場で答える

すると、大きな変化がおきた。会場には、いつもの記者クラブメンバーはひとりもいない。その代わりに、新聞社からは大阪本社文化部の音楽担当記者が参加し、そのほか音楽雑誌のライターや音楽評論家たちが集まった。さらに、会場にいる約2倍の記者たちがオンラインで参加し、欧州から視聴を希望した人もいた。これは、全国や海外への発信力を欠くと言われる自治体の広報にとって、とても大きな変化だった。

どうすれば伝えたい人に届けられるか


こうした変化をもたらしたのは、もちろん新型コロナウイルス対策にほかならない。このフルートコンクールの記者会見の前から、情報の伝え方を「変えなくてはならない」という思いは高まっていた。

4月7日、政府が「緊急事態宣言」を出すと、医療体制や休校措置などに対する自治体行政の方針に注目が集まった。2日に1回のペースで行われた久元喜造神戸市長による記者会見の内容を、一刻も早く知りたいと市民から声があがった。そこで、従来はその日の夕方に録画を公開していたのを、4月13日からライブ配信に切り替えた。

4月10日の広報官会見では、Uber Eatsと神戸市が組んで、客足が遠のいた飲食店をサポートすると発表した。全国的にもスピード感のある施策だった。
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文=多名部重則

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