ビジネス

2020.08.23 18:00

「走るアート」を実現するマツダ式・デザイン教育


──世界にはマツダのデザインセンターが4つほどありますよね?

そう。広島と横浜、フランクフルト、ロサンゼルスにある。新しいプロジェクトが始まると、4つのセンターで一斉にデザインを開始して、それぞれ提出された案の中から勝者を選びます。年に3回くらい、全世界のデザイナーを集めてデザイン・サミットを開催しています。「魂動」デザインという基礎をもとに、僕が方向性を決める。これは持ち寄ったアイデアをレビューする重要なイベントです。世界のトレンドに反応するためには、色々な国籍のデザイナーがいることが大事。外観のデザイン部には男性が多いけど、インテリアやカラーは女性が9割を占めている。

──だからここ数年、マツダ車の室内のデザインや質感がよくなったのか(笑)。

優秀な女性デザイナーが多い。入社試験や実習でも、女性のほうが力強い。女子は絵のタッチが力強くて男っぽいけれど、男子は草食系かもしれませんね。

──女性は感性のレベルが高いですよね。

大学生の頃からデザイナーを育成する「魂動塾」というプログラムをもっています。大学生を広島の本社か、横浜に集め、そこへマツダの一線級のデザイナーを送り込んでデザイン教育をする。マツダがどういうブランドなのかを勉強してもらう。そうすると、スキルも上がるし、フォルムに対する意識もよい方向に変わる。入社試験を受けてそのまま来てくれる卒業生が多い。正直言って、日本の一般的なデザイン教育は生ぬるいので、なかなかプロに育たない。それは日本人がダメなんじゃなくて、教育がダメだから。そこで、早くからデザインのノウハウをプロが教えるプログラムを設けたのです。

──それが功を奏して、あれだけ優秀なデザインが生まれてくるわけなんですね。

今、広島市立大学芸術学部の客員教授として、現代アートのゼミで学生にプロダクト・アートを教えています。自由にやっているアーティストに課題や制約を課すと、頭を働かせるのでスタイルが変化するのが面白いですよ。

──そろそろ「マツダ・ミュージアム」を造ってみては?

やりたいなぁ! ピーター、それを社長に進言してもらいたい(笑)。

海外でも「走るアート」と呼ばれるマツダのクルマ。そのデザイン哲学が詰まった美術館なら、きっと注目されるはずだ。


ピーター・ライオン◎モータージャーナリスト。西オーストラリア州大学政治学部 日本研究科卒。1983年に奨学生として慶應義塾大学に留学。Forbes、Car and Driver(米)、Auto Express(英)、Quattroruote(伊)などへ寄稿多数。ワールド・カー・アワード賞会長のほか、日本カー・オブ・ザ・イヤー賞選考委員を務めている。

文=ピーター・ライオン 写真=能仁広之

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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