ビジネス

2020.08.23

「走るアート」を実現するマツダ式・デザイン教育

マツダのデザイン・ブランドスタイルを担当する常務執行役員の前田育男

「魂動(こどう)」を旗印に現在のマツダを象徴する外観を手がけてきた前田育男。その手腕はクルマにとどまらず、同社のブランド全体にも及んでいる。前田の哲学、目指す高みとは。前回に続いて、今回も独占インタビューをお届けする。


──今年、僕が共同会長を務める「ワールド・カー・アワード」では、マツダ3 が「ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤー」を受賞しましたが、前田さんがライバル視するブランドは?

立ち上がったときのKIA(起亜自動車)はすごいなと思った。デザイン担当のピーター・シュレイヤーはさすがだな、と。でも次の段階は、売れること。デザイン・リーダーとして同じ悩みを感じます。僕が高く評価しているのがボルボ。

──わかる、最近の外観はカッコいい。中国企業に買収されてから、思いきりよく自由にデザインしていますね。

吉利汽車(ジーリー)の傘下に入ったけど、彼らにしかできない世界観を作っている。「Made by Sweden(スウェーデンがVOLVOを作った)」という広告はすごいと思う。僕は「日本がマツダを作った」とは絶対に言えないな(笑)。

──日本のクルマはダサくなっている。

日本に限らず、マーケティングで売れるクルマを目指して、そこから逆算して機能と安全性を優先すると、デザインは劣化していくんです。

──デザイン部は後回しにされてしまう?

デザインを理解していない人の意見をかき集めて形にするだけでは、企業のデザイナーとしての責任を果たしてない。

デザインは「好み」ではないんです。クオリティの絶対値が「美」を決めます。絶対値を上げるロジックがある。それをデザインの基礎として理解して、その後からテイストやエレガンスを求めていく。時間がかかるんです。

──デザインするときはグリル(前面)から始めるのですか?

3次元のフォルムの始点がグリルです。そこから後ろまでワンモーションでつながるという意識がないと、マンガチックというか、2次元なものになってしまう。前・横・後ろと区切ってやっていては「フォルム」にならない。立体感があるヨーロッパの環境では、絶対にやらないことだ。

──日本には世界から高く評価される伝統建築や工芸品があり、原宿や渋谷は欧米のデザイナーやファッショニスタにインスピレーションを与えているのに……。

歴史的に、美しいものはたくさんある。でも、日本の伝統の根底にある美とは何か、それが確立されてない。ヨーロッパでは、建築やクルマ、それぞれの様式がすべてリンクしているが、まだ日本のデザイン様式というのはわからない。

──前田さんは最初、マツダのデザイナーだったお父上とは違う建築家を目指したものの、結局はデザイナーになられた。東京本社も前田さんのデザインによるものですし、日本国内のディーラー店舗のデザインにも力を入れているとか。目黒碑文谷店はかなりスタイリッシュですよね。

ありがとう。今は「デザイン・ブランドスタイル担当」なので、新車はもちろん、店舗や広告、パンフレット、モーターショーのブースもデザインしています。店舗の雰囲気が変わると、働く人の意識も高まる。サービスパーソンやファクトリー・ワーカーのウェアもカッコよくしたい。
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文=ピーター・ライオン 写真=能仁広之

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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