ライフスタイル

2020.09.13 11:00

スウェーデン在住の日本人が帰国時に楽しむ「11の至福」|後編

石井節子

10. 地方·旬の食べ物


スウェーデンに限らず、日本の至福として海外在住者が必ず挙げるのが、食の豊かさだろう。海外旅行をしなくても世界中の料理が楽しめるし、日本国内の食文化も多彩で、それが国内旅行の楽しみでもある。

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様々なお店の看板がひしめく東京の街並み(Getty Images)

スウェーデンは農業という意味では気候が残念で、国内で安定供給される野菜は地下に育つものに限定されてしまう。イモ類、人参、玉ねぎ、カブ類(コールラビ、スウェーデンカブ、ビーツ)などだ。サラダに使うような野菜やフルーツは海外からの輸入品で、イタリア産やスペイン産のものをよく見かける。ただし、イタリアで食べる野菜やフルーツとは鮮度も味も全然ちがっていて、イタリア人は自分たちが食べれない質のものを輸出しているのではないかと疑心暗鬼になるほどだ。

スウェーデンも南北に長いとはいえ、日本のような地方名産品はあまりない。北極圏に行けばトナカイ料理があったり、海岸ぞいのレストランでは魚介料理が人気なくらいで、他はだいたい同じような材料で作られた料理だ。だから国内旅行の楽しみに、ご当地グルメは含まれない。

11. 夜中にコンビニで買えるプリン


日本はスイーツも充実している。夜中にコンビニで買うプリンやコーヒーゼリーも至福だし、芸術品のようなケーキやチョコレートが試しきれないほど豊富にある。

わたしは特に素材の味を楽しめるケーキが好きだ。スウェーデンのケーキは見た目は美味しそうなのだが、どれを食べても砂糖の甘さが勝っていて、素材の味があまりしないのでガッカリさせられる。ただし、誰かのお宅にFIKAに招かれたときの手作りシナモンロールやクッキーは、食べ過ぎてしまうほどに美味しい!

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スウェーデンの甘いだけのケーキ(写真提供:久山氏) 

飲み物の種類も、日本は天国のようだ。特に、各種のお茶をはじめとした甘くないドリンクが充実しているのがありがたい。スウェーデンでは、というかアジア以外ではどこでもそうなのかもしれないが、ペットボトルで買える甘くないドリンクといえば水と発泡水くらい。レストランに行っても、大人はお酒、子どもはコーラなどの甘いドリンクという選択肢になる。わたしはウエイターに「水道水でいいです(スウェーデンは無料)」と言いながら、日本のドリンクの多彩さを恋しく思う。

──今回こうやって、「日本に帰って至福と思えるもの」を書き出しながら、スウェーデンに移住した10年前を思い返してみた。実は移住するときは嫌で嫌で仕方がなかったのだ。高校時代にも1年間留学していたわたしは、日本と比べるとスウェーデンは「何もない」「娯楽が少ない」「不便」というイメージしかなかった。

しかし大人になって10年住んでみて、さらに子育てをしたこともあり、今ではスウェーデンの良さをしみじみと感じられるようになった。

確かに日本のほうがなんでも安いし、便利だし、娯楽も多い。しかし今、それを違った視点から見られるようになった。便利さの裏には、「ブラックな条件で働いてくれている人たちの存在」があるのかもしれない。安いということは、経済的に搾取されている人がいるのかもしれない。労働組合の強いスウェーデンではサービス残業はないし、夜や週末はあまり店が開いていない。不便で娯楽が少ない代わりに、多くの人が家族と過ごす時間を確保することができる。物価が高い代わりに、労働者の最低賃金は保証されている。

日本とスウェーデンの2カ国に住んだことで、「安くて便利で、さらに皆がプライベートを大切にして暮らせる国」などあり得ないのだと気づいた。要は自分自身がどちらの国に住みたいかだ。

考えたことはもうひとつある。こうやって書き出してみると、日本のよさは、決して安さや便利さだけで成り立っているものではないことを再認識するのだ。豊かな食文化、スウェーデンの13倍という人口で成り立つ市場規模から生まれる娯楽や商品の多彩さ、四季折々の自然を愛でる気持ちなど、日本を離れて改めてその素晴らしさに気づいた。そんな日本の魅力をこれからも維持して、世界中の人たちを惹きつける日本であり続けてほしい。

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久山葉子(くやまようこ)◎スウェーデン語文学翻訳者、エッセイスト。 高校時代に1年間AFSでスウェーデンに留学。東京のスウェーデン大使館商務部勤務を経て、2010年に日本人家族3人でスウェーデンに移住。現地の高校で日本語を教えている。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』、訳書多数。

文・写真提供=久山葉子 編集=石井節子

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