ライフスタイル

2020.09.13 11:00

スウェーデン在住の日本人が帰国時に楽しむ「11の至福」|後編

スウェーデン、スンツヴァルの著者の自宅。著者の娘が父方の祖母から贈られた「こけし」がある


9. スキー場


null
日本のスキー場の様子(Getty Images)
-->
advertisement

日本のスキー場の雪質はレベルが高く、わざわざ海外からもスキー客が来ると聞く。万年中級者のわたしは雪質を論じる身分にはないが、ヨーロッパでスキーをするようになって、かえって日本のスキー場が恋しくなった。

スキーを滑ること自体は同じなのだが、そのあとが大きく違う。ヨーロッパのアフタースキーは、大きな音楽がかかっていて深夜まで開いているレストランバーのようなところへ行く。要は「スキー場にクラブがオープンしている」ような感じだ。

今年の3月に北イタリア周辺でコロナが拡大した要因のひとつといえば、ピンとくる方もいるかもしれない。閉じられた空間に大勢がひしめきあい、大きな音楽とお酒のせいで怒鳴るように話して、知らない人の唾がたくさんかかる場所。ヨーロッパの人たちにとってはスキー旅行最大の楽しみのひとつのようだが、お酒にもナンパにも興味のないわたしが描写すると、全然面白くなさそうに聞こえる。
advertisement

もちろんスキーの後のビールは美味しいし、酔った勢いで知らない人と会話するのも楽しいだろう。しかしわたしが夢見るアフタースキーはあくまで日本式で、「腐った卵みたいな匂いの温泉」であり、「テーブルに並びきらないほどの夕食」であり、「そのあと片づけをする必要もなく布団にもぐれること」だ。

スウェーデンにも大きなスキー場がいくつかあり、夫も移住当初からIT企業の同僚たちに誘われて毎年スキー旅行に行っていた。男ばかり10人ほどで大きな別荘を借りて、3チームに分かれて各日のディナーを用意する。前菜、メイン、デザートのフルコースと、皆が競うように料理の腕を披露したらしい。

家族で行く場合も、人数に応じて別荘かアパートメントに泊まり、夜は自炊することが多い。夫に「家族でもスキーに行こうよ」と誘われたとき、わたしは「いいけど、自炊だけは絶対にご免だから!」と答えた。スキー旅行に行ってまで調理をして、食べ飽きた料理を食べるなんて。だから「宿泊はホテル、食事はすべてレストランで」という条件でスキーリゾートに向かった。

null
スキー場で男性たちが料理をする様子(写真提供:久山氏)

その数年後、わたしたちはホテルを卒業し、別荘を借りるようになった。理由は「自炊ができないとキツイから」。スウェーデンで毎日ランチ、ディナーとも外食をするのはかなりハードルが高かった。

レストラン自体はたくさんある。わたしたちが行くスキーリゾートは首都からも大量のスキー客が押し寄せるところで、話題の店や有名シェフの店がひしめいている。しかし、どこも「肉か魚+ポテト」ばかりで、いくら高級店でも飽きてしまう。特にスキーリゾートというのはつけ合わせにこってりしたフライドポテトが登場する率が高く、うっかりすると昼も夜もそれを食べるはめになる。

それに気づいて以来、キッチンのある宿泊施設に泊まるようになり、外食は1日に1度だけと決めた。それ以外は自炊だ。日本のスキー場が忘れられないわたしはラーメンやカツカレーを計画。インスタントのラーメン、圧力鍋に入れたカレーと前に作って冷凍しておいたトンカツ、そして炊飯器を別荘に持ち込むという「スキー場ライフハック」を編み出した。この歳になると家でカツカレーを食べたいと思うことはないが、スキー場で食べるそれはやはり美味しい!
次ページ > 恋しくなる「ご当地グルメ」

文・写真提供=久山葉子 編集=石井節子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事