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ポジティブ・ジャーナリズムの現場から



捕虜になった日本兵と、従軍看護師の結婚式。新郎の顔は微かにほころんでいるようだ

庭田さんは、とくに子どもたちの目線に立って写真を集めたという。「戦争は、戦地で戦う人たちだけでなく、子どもたちを含む一般市民が巻き込まれて犠牲になる。同世代の若い人たちに『自分ごと』と思ってもらうには、戦争は日常の暮らしを奪うものだと知ってもらうことが大事だと考えています」と話す。これは、庭田さんみずからの体験に基づいている。

「広島出身なので幼い頃から平和教育を受けて育ちましたが、たとえば子どもたちに最初に原爆被害の惨状から見せるのが果していいのかという疑問はずっと抱いていました。自分とはかけ離れた歴史上のできごとと捉えてしまう子もいます。私がそうでした」

だから、惨状の写真だけでなく、戦前の子どもたちの笑顔があふれる写真も選んだ。戦争は、この笑顔を奪うのだ、と伝えるために。

硫黄島で撮影された日本兵
硫黄島にて。手榴弾を持ったまま砲弾孔に埋まる日本兵。ほぼ2日間死んだふりをしていた。アメリカ兵から煙草を与えられている

一方、渡邉教授は「戦争に勝った側が撮った写真もカラー化する必要がある」と、空襲におけるアメリカ軍機の空からの視点、それに進駐軍のカメラマンが日本人を撮影した写真も選んだ。硫黄島や沖縄で日本軍と戦うアメリカ兵の写真もある。戦禍が激しさを増すにつれ、破壊されつくし、廃墟と化した街の写真も増えていく。

「集めたモノクロ写真をカラー化して時系列に沿って並べてみると、日常のしあわせな暮らしが戦争によってむしばまれていく様子がよくわかりました」

二人は、戦前から戦時中、戦後にかけて計355枚の写真をAIでカラー化。戦後75年を迎えた今夏、一冊の写真集にまとめた。

一瞬を切り取るメディアである写真はその前後を含め、見る者の想像力をかき立てる。見る人によって心に残る写真がまったく異なるのも、この写真集の特徴と言えるだろう。

私は沖縄に住んでいたことがある。カラー化でよみがえった沖縄の空と海の痛々しいほどの青さが目に飛び込んでくる。こんな綺麗な島で、日本とアメリカはかつて殺し合いをしていたのだ。戦争の愚かさを改めて知る。


護衛空母「サンガモン」に突入する「菊水五号」作戦の特攻機

上の写真は、沖縄・慶良間列島沖で撮影された一枚。私は19歳の時、シュノーケリングを楽しむ客を案内するアルバイトで慶良間をよく訪れた。写真は、特攻機がアメリカ空母に突入する瞬間を捉えている。生きたいという葛藤を抱えたまま、海に散ったのではなかったか。

カラー化された写真を通じて、悲惨な戦争に思いをはせる。

追憶の色彩が、いまを生きる私たちに平和の大切さを語りかけている。


広島市の「本通り」商店街のモノクロ写真。下のカラー写真は写真集のカバーになっている


写真集は「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」(光文社新書)

文=島契嗣

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