戦時の写真をAIとカラー化 東大教授と学生が紡ぐ「記憶の解凍」

原爆投下から1年、福屋デパートから焼け野原を望むカップル。二人はどんな会話をしているのだろうか(共同通信社提供)



高橋久さんの家族写真。モノクロ写真をデジタル化した段階(高橋久さん提供)

モノクロ写真をカラー化する手順は、こうだ。

1. 素材となるモノクロの写真を入手し、デジタル化する

2. AIで自動彩色を施す(あくまでした色付け)。使用するAIソフトは3種類。AIは人肌や空、海など自然物のカラー化は得意だが、衣服や乗り物など人工物は苦手

3. 写真提供者(戦争体験者などの当事者)への取材を通じて「色補正」を行う。ほかに、資料を調べたり、SNSに寄せられた情報を参考にしたりすることもある

4. 上記3の「色補正」の調整・検証をひたすら繰り返す。中には完成まで数カ月かかるものもある


上記の手順でカラー化した家族写真。高橋さんは認知症を患っているが、写真を見て「これはたんぽぽだった」と思い出を語り始めた (高橋久さん提供)

ツイッターでカラー化した写真の投稿を続けている渡邉教授。モノクロ写真をカラー化することに、どのような意義があるのだろうか。

「現代の人がモノクロ写真を見るときのことを『目がすべってしまう』と私は表現しています。私たちは普段、カラー写真に見慣れているので、情報量の少ないモノクロ写真はそもそも視線にひっかかりづらい。さらに、モノクロであることが『これは昔のものだ』という先入観を生み、『戦争の記憶』と『現代の我々』を遠ざけています」

さらに渡邉教授は「モノクロ写真をカラー化する過程で、戦争体験者とのやりとりを通じてストーリーが生まれるのがこのプロジェクトの面白いところだ」と語る。

その「ストーリー」をめぐって興味深いエピソードがある。

庭田さんが、認知症が進んでいた高橋久さんという男性の娘から戦争当時の家族写真を預かり、上の写真のようにカラー化して贈ったところ、高橋さんは原爆で失った家族との思い出をいきいきと語り始め、身内でさえ驚いたという。庭田さんは「カラー化した写真には、記憶を刺激したり、よみがえらせたりする力があるかもしれない。プロジェクトを通じて戦争体験者と対話し、当時の想いや記憶を広く社会に伝えていきたい」と語る。

庭田さんと渡邉教授は、戦争に関連する「広島」以外の写真のカラー化にも着手した。まずは素材となるモノクロ写真を広い視点で集めた。一般家庭に残る写真だけでなく、米国の公文書館や新聞社・通信社からも提供を受けた。

戦前の市井の人たちの日常を捉えた写真。爆弾を搭載した戦闘機で敵艦に体当たりする「特攻隊」の隊員の出撃前の表情や、体当たり前に被弾し撃墜される特攻機。太平洋戦争末期に空襲を受けた全国各地の空撮記録も集めた。

特攻隊のカラー化写真
陸軍銚子飛行場から離陸前に撮影された特別攻撃隊「石腸隊」
次ページ > 「戦争は、この笑顔を奪うのだ」

文=島契嗣

ForbesBrandVoice

人気記事