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ポジティブ・ジャーナリズムの現場から

原爆投下から1年、福屋デパートから焼け野原を望むカップル。二人はどんな会話をしているのだろうか(共同通信社提供)

75年前の今日、日本は敗戦し、戦争は終わった。戦争の悲惨さや平和の大切さを若い世代にどのように伝えていくかという課題は年々、重くなっている。

今年はNHKが手がける、孫世代が祖父母から掘り起こしたエピソードをツイートするハッシュタグ「 #あちこちのすずさん」など、若者に少しでも「あの日の記憶」を身近に感じてもらおうとする取り組みが目立っている。

今回注目したいのは、ある教授と学生が紡ぐ「記憶の解凍」プロジェクトだ。

戦前や戦時中、終戦直後に撮影されたモノクロ写真をAI(人工知能)でカラー化する取り組みで、当時の日常生活の記憶をよみがえらせている。冒頭の写真は、原爆投下から1年後の広島市街地のデパートから焼け野原を見つめるカップルを捉えた写真。壊れたフェンス越しに茶色くなった街の風景を眺めながら、二人は未来について話していたのだろうか。

「記憶の解凍」プロジェクトを手がけるのは、東京大学1年の庭田杏珠さん(18)と東京大学大学院情報学環の渡邉英徳教授(45)。

広島市出身の庭田さんは高校1年の時に、とある講習会の場で、戦争に関する記録の「デジタルアーカイブ」制作に取り組んでいた渡邉教授に出会った。渡邉教授は早くから、広島や長崎、沖縄の写真や証言をデジタル地球儀「Google Earth」に重ね合わせるなど新しいデジタル技術を駆使して「戦争の記憶」の伝承に挑んでいた。

庭田さんは渡邉教授の取り組みに刺激を受け、技術を教わる。そして二人はアートやテクノロジーを通して、新たな「戦争の伝え方」の模索を始めた。それが、戦前戦後のモノクロ写真をAIでカラー化する今回のプロジェクトにつながる。

庭田さんは3年前、地元・広島市で被爆者の証言を集める活動の中で、ある男性から白黒の家族写真を預かり、デジタル化したうえでカラー化してプレゼントした。すると、男性は「家族がまだ生きているようだ」と大いに喜んだ。男性は、原爆投下で家族全員を失っていた。カラー化された写真を見ながら、男性の記憶が次々とよみがえってくる。

「記憶の解凍」プロジェクトが始まった瞬間だった。庭田さんは「カラー化を喜んでくれる広島の戦争体験者のみなさんから寄せられる声が、いまも私の原動力です」と話す。

文=島契嗣

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