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数年前まで、シャオミはまだこの世に存在すらしていなかった。
ところが同社はいま、スマートフォンの販売シェアで世界第3位だ。
テクノロジー業界に衝撃を与えた「中国の新星」の野望とは?
創業者兼CEOが、「フォーブス」の独占インタビューに応じた。


 レイ・ジュン(45)は、どんなスタートアップのCEOにも負けないほど働いてきた。週100時間はあたりまえ。彼が経営する「シャオミ(小米)」が世界で最も有望なIT企業として注目されるほど急成長を遂げ、中国の長者番付で8位に入ったいまでも、それは変わらない。彼は休みを取りたがらない。わずかなリスクでも放置すれば、これまで築き上げてきたものが台無しになりかねないからだ。
「4年前に“こんな話”をしても、誰も信じてくれなかったでしょうね」と、レイは中国の中部にある武漢の訛りでそう振り返る。
“こんな話”とは、近い将来、世界最大のスマートフォン市場の中国で首位に立つことだ。2010年に創業したシャオミのスマートフォン「Mi」の中国市場における販売台数は、いまや他社を上回っている。世界のスマートフォン出荷台数は年間15億台で、その半数以上をアジアが占める。アジアでシェアを拡大したシャオミは、サムスンやアップルに次いで一気に世界第3位に躍り出た。
 レイが「中国のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれるのには、それなりの理由がある。彼はアップルの創業者、スティーブ・ジョブズの特徴を徹底的に研究して、模倣している。派手なプレゼンテーションに、黒いシャツとジーンズという服装。アップルの製品デザインも詳細に分析している。アップルのデザイン担当上級副社長、ジョナサン・アイブから「アイデアの盗用だ」と非難されるほどだ。
 だが少なくとも中国では、レイはビジネス界の生ける伝説になりつつある。
「私の夢は、シャオミを中国のナショナル・ブランドに育て上げることです。そして、国内のIT業界にインパクトを与え、世界中の人々の役に立つサービスを提供したいのです」
 低価格でありながら高機能のアンドロイド搭載スマートフォン—。中国のユーザーが求めるモノを提供することで、シャオミは売り上げを伸ばしている。14年の出荷台数は6,000万台となる見込みで、前年の2倍、売上高も上半期だけで55億ドル(約6,600億円)、純利益は約8,000万ドルと前年通期を上回っている。
 シャオミが中国市場で首位に浮上した理由は、消費者との距離を縮めたことだ。あらゆる製品をインターネットで販売することで、商品の選定から顧客サポートまで、顧客に満足感を与えるサービスを提供することができる。また、部品の調達方法でも工夫している。事前に大量発注するのではなく、年間を通して数回に分けて発注することで、技術の進歩と共に下がる部品のコストを低く抑えているのだ。
 さらに、中国版ツイッターの「ウェイボー(微博)」やシャオミのチャットサイト「MiTalk(米聊)」に投稿されたユーザーのアイデアを生かすことで、製品の向上を図っている。また、シャオミは年1度のファンイベントのほか、ユーザーのオフ会も開いている。
 そんな熱烈なファンの思いが定期的に行われるフラッシュセール(期間限定の割引セール)を盛り上げる。11年秋に発売したシャオミの初代機種Mi1の先行予約の数は、受け付け開始から34時間で30万台に達した。昨年の新型モデルは、90秒で10万台も売り上げている。
 中国で成功したシャオミの販売戦略は、どこでも通用する。インドネシアでは40秒も経たないうちに、1万台を売り上げた。同社はインドネシアを含め、香港やインド、マレーシア、シンガポール、台湾など6カ国で販路を拡大してきた。
 現在、シャオミの社員の数は7,500人だが、世界進出を見据え、優秀な人材の引き抜きに力を入れている。昨年は、グーグルでアンドロイド部門の副社長だったヒューゴ・バラが国際事業部門の統括責任者に就任した。
 シャオミは、この先どこまで伸びるのか? 同社は上場していないが、13年に行われた前回の投資ラウンドでは100億ドルの企業価値をつけた。「フォーブス」はシャオミの現時点の評価額を250億ドルと見積もっているが、同社は、400億ドルの評価額で資金調達を開始したと言われている。レイは、どちらの評価額も上限だとは思っていない。
「4年前、シャオミは時価総額100億ドルの企業ぐらいにはなれると思っていましたが、それはまちがっていました。当時、私は10億ドル規模の会社としか仕事をしたことがなかったもので。時価総額1,000億ドルの企業など見たこともなかったのです」
 14年11月に中国で開催された世界インターネット会議で、レイは「今後5〜10年で、シャオミは世界一のスマートフォン・メーカーを目指す」と明言した。アリババのように、シャオミも新規株式公開(IPO)で一気に時価総額1,000億ドルに達する可能性があるが、レイは「今後5年間は上場の予定はない」と述べている。
「いちばん大事なことは、とにかく事業に徹底的に集中することです。いま、IPOを実施すれば、社員はお金持ちになるでしょう。持ち株を売り、家や車を買い、海外へ移住してしまうかもしれません。そんなことになったら、会社はどうなりますか?」

40歳までは無名だった天才経営者

 レイ・ジュンも、バイドゥ創業者のロビン・リーやアリババ創業者のジャック・マーなどと並ぶ中国IT業界の寵児と呼ばれているが、20〜30代は決して順風満帆だったわけではない。40歳を過ぎてスマートフォンの大成功で世間に知られるようになるまで、ほとんど無名の存在だった。
 武漢大学の電気計算機学部を卒業後、1992年にウイルス対策ソフト開発会社のキングソフトに入社、6年後にCEOに就任。07年のキングソフトの上場を機に同社を退社し、スタートアップへの投資に力を注いだ。
 シャオミはグーグルが中国政府の検閲に抗議して、中国版の検索サービスを停止した10年に創業された。レイは、基本ソフト「アンドロイド」の中国スマートフォン市場開拓に取り組んでいたグーグルのリン・ビン(林斌)と親交があった。当時、アップルが圧倒的なシェアを誇っていたが、彼らはアンドロイドが市場に入り込む余地はあると読んでいた。
 グーグルの中国撤退を受け、レイはリンとシャオミを創業。2人は中国ユーザーのニーズに合わせてアンドロイドをカスタマイズし、何カ月もかけてビジネスモデルを練り上げた。特に、仕入れ原価を低く抑え、節約した分を顧客に還元する米小売り大手のウォルマートやコストコの手法を研究した。
 11年9月に行われたMi1のフラッシュセールでは、広告費を一切使わずに、記録的な成功をおさめた。ここ2年間、サムスンやアップルにとって、端末を原価すれすれの価格で販売し、アプリやサービス、アクセサリーでわずかな利益を得るシャオミが脅威となっているのはまちがいない。その手法を投資会社「啓明創投」の創業者、ゲイリー・リーチェルは高く評価する。
「いまのテクノロジー新時代にあって大人数の消費者とコミュニケーションがとれるのは、アップルの直営店ぐらいでした。そこへ、シャオミが実店舗などなくてもユーザーとつながれるようにしたのです」

総合テクノロジー企業への「変身」

 レイには今後、いくつかの具体的な目標がある。まず一つは、シャオミを1,000億ドル規模の企業に育て上げること。そのためには、海外での成功が欠かせない。低価格のスマートフォンを販売する競合が次々と現れ、訴訟リスクも浮上していることを考えると、困難な道のりになるだろう。
 事実、世界第2位のスマートフォン市場になると予想されるインドへの進出では、すぐに壁にぶち当たった。シャオミは14年7月、同国で端末を売り始めたものの、スウェーデンの通信機器大手エリクソンがシャオミを提訴。
 デリー高等裁判所は12月にエリクソンの訴えを認め、インドでのシャオミ端末の販売差し止めを命じた。シャオミは一時的な措置として、製品当たり1ドル57セントの特許使用料を支払うことでエリクソンと和解している。
 もう一つは、多様な製品を扱う総合テクノロジー企業への転換だ。シャオミは14年11月からインターネット対応の49インチ型「Miテレビ」を発売。発売初日に3万7,000台を売り上げている。
 レイは、グーグルが14年にスマート家電メーカーのネスト・ラボを32億ドルで買収したことを、今後の業界の動向を占う指標になると評価している。そして、「シャオミも重要なプレイヤーになる」と断言する。
 インタビューを終えると、レイは仕事に戻っていった。週100時間のノルマをこなさなければならないからだ。家族が彼の帰りを待っていても、そこだけは譲れない。「シャオミは駆け出しの会社にすぎません。足腰がまだ弱いのです」とレイは言う。
 それでも、市場はシャオミの上場をいまかいまかと心待ちにしている。

ラッセル・フラネリー=文 ジル・サブリエ=写真 岡本富士子/パラ・アルタ=翻訳

 

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