最少限の言葉で最大限に。編集者に学ぶ「価値を増やす4原則」

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1. 削除する


編集の基本は、あいまいでわかりにくい要素を排除し、観客や読者の混乱を防ぐことだ。うまく編集された映画や本は、すんなりと頭に入ってくる。

何かを決めるとき、選択肢を増やしたほうが安心だと考える人は多い。だが実を言うと、決断の本質は、選択肢を減らすことにある。決断(decision)という言葉の語源は、ラテン語で「切る」「殺す」という意味だ。余分な選択肢を断ち切れば、すんなりと決断できる。

かなり魅力的な選択肢だとしても、混乱のもとになるものはすべて取り除いたほうがいい。魅力的なものを捨てるのはつらいけれど、あとになってみればそのほうがよかったと実感するはずだ。

ここでスティーブン・キングの言葉をもうひとつ。

「書くことは人の仕事だが、編集は神の仕事だ」

2. 凝縮する


「すみません、もっと時間があればもっと短い手紙が書けたのですが」

さまざまなバージョンで伝わっている有名な言葉だ。何事においても、増やすよりは減らすことのほうが難しい。ひとつの言葉やひとつのシーンに、より大きな意味を持たせなくてはならないからだ。

すぐれた編集者は、言葉を減らすことにこだわり抜く。この2文を1文にまとめられないか。2語のところを1語で言えないか。数々の有名書籍を手がけた編集者アラン・D・ウィリアムズは、「編集とは何か」というエッセイで次のように語っている。

「編集者が著者にたずねるべき基本的質問が2つある。『言いたいことを言えているか?』と『言いたいことを最大限明確かつ簡潔に言えているか?』」

言葉を凝縮するとはつまり、言いたいことを最大限明確かつ簡潔に言うことだ。

文章にかぎった話ではない。起業家のグラハム・ヒルは、ニューヨークの狭いアパートメントに引っ越したとき、自分の持ち物をどうやって凝縮しようかと考えた。そして工夫した結果、「小さな宝石箱」のような部屋が完成した。

そこでは、あらゆる家具が複数の役割を兼ねている。左側の壁は映画鑑賞のためのプロジェクターになり、その裏には客用のベッドが2つ収納されている。右側の壁を押すと、たちまちクイーンサイズのベッドが現れる。

あらゆるものが最大限に活用され、暮らしに大きく役立っているのだ。彼はこのアイデアをもとに LifeEdited(人生を編集する)というビジネスを立ち上げ、世の中に画期的なイノベーションをもたらしている。

念のために言っておくが、凝縮の目的は一度に多くをやることではない。無駄を減らすことだ。より少ない言葉でアイデアを伝える。より少ないスペースで快適な生活を実現する。より少ない努力で大きな成果を出す。

つまり人生を凝縮するということは、結果に対する行動の比率を減らすということだ。そのためには、いくつもの無意味な行動をやめて、重要な行動ひとつに置き換えればいい。

ある企業で働いていた優秀な社員は、毎週のミーティングを必ず欠席し、あとで話のポイントだけ聞いていた(高い評価を得ていたのでクビになるようなことはなかった)。そうすることで、2時間のミーティングを10分に凝縮し、残りの時間をもっと重要な仕事に費やしたのだ。
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