例えば復活の兆しを見せているのは、巡礼の旅。ヨーロッパではフランスからスペインのサンティアゴ・ディ・コンポステーラ大聖堂へ行く巡礼の道が有名だが、実はイタリアにもある。9世紀から存在するイギリスのカンタベリーからローマへ続く2000Kmもの巡礼路ヴィア・フランチジェナだ。北部イタリアの古くからある名門登山クラブ、アルピノイタリアーノの努力によって復興整備され、今年のプログラムは例年以上に関心が高く、多くのイタリア国内の参加者を集めて開催するという。
そのほかにも北イタリアの山中の洞窟や鍾乳洞では静かな水音を聞きながら瞑想するプログラムや、ピエモンテのランゲの丘にある小さな村のブドウ畑のウォーキング、トスカーナの奥深い清流でカヤックの上でバランスを取りながらヨガを行うオリジナルプログラムもある。エミリアロマーニャ州の広大な海岸線ではサンセットヨガ教室が開かれ、サルデーニャ島の岩だらけで静かな小さな入り江の中で波の音に囲まれた瞑想を楽しむアクティビティも良さそうだ。シチリア島のラグーザの田園地帯ではセミナー、ヨガ、瞑想のホリスティックなコースを開催する「アグリツーリズモ」も人気だ。
ユネスコ世界遺産のイタリア北西部のチンクエ・テッレ。色とりどりの家屋にぶどう畑、海が広がる (Getty Images)
ヴァカンツァが人生の中心
常日頃からヴァカンツァを愛し、山や海で頭がいっぱいのイタリア人だが、とにかくこの夏はより一層、自然と人間の関係性を取り戻す、そんな過ごし方が好まれている。この夏をきっかけにイタリア人が国内や地元に目を向けることで、豊かな自然資源や美意識を駆使したプログラムを打ち出していけば地域の新たな魅力や文化や自然の復興にもつながるに違いない。
ヴァカンツァが人生の中心と言い切るイタリア人は、休むこと=怠けることと混同しがちで、休み下手な日本人の私たちに大事なことを教えてくれる。
自分の人生の軸足が何か、職場や学校を離れて自分自身を取り戻す時間は忙しさに負けて簡単に失いがちだが、イタリア人はこのコロナ禍であっても諦めず、目一杯太陽を浴びて新鮮な空気を吸っている。自然と切り離された生活を都会で送っていても、豊かに生きられるイタリア人の知恵が長い長いヴァカンツァという文化になったのかもしれない。
きっとイタリア人の夏休みの過ごし方には人間が回復するということへの本質的な意味が詰まっているのだろう。