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2020.08.21 12:00

今夏はエコな国内旅行が人気 自分を見つめ直すイタリア流ヴァカンツァ

マスクをしたままビーチに腰掛ける人。ローマ近郊のオスティアで(Getty Images)

マスクをしたままビーチに腰掛ける人。ローマ近郊のオスティアで(Getty Images)

イタリアで夏休みはVacanza (ヴァカンツァ)と言い、人生で最も重要なことのひとつと言っても過言ではない。

語源は「空っぽ」という意味のVuotoからきていることからもその目的はいたって明快。何もせず自分の頭や心を空っぽにして生きる活力を自分自身に満たし、「生きてる素晴らしさ」を感じられる時間を、家族や愛する人と、大自然や非日常の中で過ごす大事なイベントなのだ。

だが、新型コロナウイルスが収束しないまま迎えた今年の夏。イタリア現地で暮らす人はどのように過ごすのだろうか。イタリア北部のピエモンテ州在住の筆者がお伝えしたい。

休んで、整える

イタリア国内旅行市場は驚異の回復。一方、都市部は


イタリアでは8月15日のFerragosto (フェッラゴスト)と言われる聖母被昇天の祝日を中心に、その前後合わせて約1週間は全国的に休みとなる。ロックダウンで3カ月も身動きが取れなかった観光業や外食産業にとっては、正に勝負の時。

イタリア政府の呼びかけもあって、世論調査会社SWGと観光商工組合の統計調査によると、今年の夏休みは休暇を取る予定の3400万人の国民のうち、93%がイタリア国内にとどまるという。飛行機や電車の移動も避けて、マイカーで行ける近隣圏やローカルな地域で過ごすという選択をする人も全体の25%にのぼる。

例年であれば冬が明けていない頃から、今年はどこで何をして過ごそうかという話題が盛り上がるのだが、厳しいロックダウンを経験し、業種によっては2週間や3週間の長い休暇を諦め、今年は短い休みを何回かに分けて取る人も多い。

このような国民が待ちわびるイベントを促進するため、イタリア政府は所得が年収4万ユーロ(約500万円)以下の家庭を対象に休暇用ボーナスバウチャーを最大500ユーロ配布している。すでに100万件の申請があり、経済効果は6000万ユーロ(約75億円)と予測されている。

利用は主に北部の食産業の要であるエミリアロマーニャ州、南で風光明媚なビーチが並ぶプーリア州、美しい田園やワイン畑が広がるトスカーナ州に集中しており、ミラノやローマなど都市部に住む家庭の短い休暇に活用されているようだ。実際に最新のENIT(イタリア政府観光局)のモニタリング結果によると、驚くほどにイタリアの国内旅行市場は回復している。

海側も山側も宿泊施設は8月の半ばにかけてほとんど売り切れで、近隣のフランスやスペインよりも回復率は高い傾向にあるという。ただ残念なことに例年ならば今頃は外国人観光客で賑わうフィレンツェやヴェネチア、ローマやミラノなどの都市部は依然苦戦が続いていることだ。フィレンツェはホテルが40%しか再稼働しておらず、その内たった20%しか予約が埋まっていないという。外国人観光客に大きく依存していた芸術都市、文化都市の観光の再建はまだ時間がかかりそうだ。

とはいえ、現地に住む人にとっては、おそらく後にも先にもこれほど人の少ない夏を過ごすことは不可能であろう。観光客の少ないヴェネチアの街を歩いたり、駐車場に何時間もさまようことなく海辺にふらりと寄って景色を楽しめることは、何より素晴らしい経験だ。普段は観光客のものと諦めていた地元の美しさを存分に味わえる喜びに感謝したい。

ヴェネツィア
海外からの観光客に人気なヴェネツィア。イタリアの人たちも今年はゆっくり楽しめそうだ (Unsplash)
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文=齋藤由佳子(Forbes JAPAN オフィシャルコラムニスト)

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