みずほ情報総研が2014年に実施した東京電力管内に住むおよそ960人を対象とした調査によると、クーラーを使わない人の割合は20代が18%、30~50代が30%前後であるのに対し、60代で35%、70代では39%と上がっていた。
節電意識に加え、加齢とともに体温調整機能や温度を感じる機能が低下し、クーラーをかけっぱなしにすると体が冷え切って不快感を抱くからと考えられる。少なからぬ高齢者はクーラーを使わず、扇風機に頼るが、その扇風機は状況によっては安全とは言えないのだ。
ステイホームは基礎疾患を悪化させた?
3つ目の熱中症に関して注意すべきポイントは、持病の管理の徹底だ。猛暑が危険なのは、熱中症を起こしやすくなるからだけではない。高齢者の持病を悪化させることにもつながるからである。
近年、この分野の研究は急速に進んでいる。中国の研究者が2013~15年までの中国国内の主要272都市における死亡統計と熱波の関係を解析したところ、熱波の襲来時には心疾患、脳梗塞、閉塞性呼吸器疾患による死亡のリスクが大幅に増加していた。特にリスクが高まっていたのは、高齢者、女性、教育水準が低い人たちだった。
同様の調査結果は、2018年1月に米カリフォルニア州の研究者からも報告されている。どうやらこれは世界的な傾向のようだ。
2019年10月には中国と豪州の研究者が、熱波と基礎疾患の悪化について、過去に報告された54の論文をまとめたメタ解析の結果を発表した。彼らの報告によれば、心臓病および呼吸器疾患による死亡リスクは、それぞれ15%、18%上昇していた。高齢者は熱波襲来時には、より一層体調の管理に留意しなければならないことになる。
さらに、今年はさらにリスクが増すかもしれない。それは新型コロナウイルスの感染が拡大して、基礎疾患が悪化した高齢者が多いと見込まれるためだ。
なぜ、基礎疾患が悪化するのか。いくつかの理由が指摘されている。総合情報誌「選択」8月号に掲載された「《日本のサンクチュアリ》コロナ『関連死』」は興味深い記事だ。
この記事で紹介されているが、長引く「ステイホーム」が、基礎疾患を悪化させるケースが多いのだ。今年5月、欧州の研究者が「ニュートリエンツ」誌に発表した報告では、外出禁止期間中に運動量は38%低下し、座っている時間は29%も増加。さらに、糖分や脂質が多い不健康な食事の摂取が27%、間食が110%、スナック菓子の利用が76%も増加していたという。これで生活習慣病が悪化しないはずがない。
これは筆者の実感とも一致する。安定した高血圧、高脂血症の患者では3カ月分の薬を処方する。久しぶりに外来で会うと、体重増加で容貌が一変している人を見かけることがある。高血圧や高脂血症は急激に悪化しているのだ。このような人のほぼ全てが「コロナが怖くて、自宅に引き籠もっていた」と言っている。
高齢者の健康状態は、われわれが考えているより遙かに脆弱だ。コロナ禍をきっかけに、この点についても研究が進んだ。
ブラジルのサンパウロ大学の研究チームが、今年6月に循環器生理学の専門誌に発表した論文によれば、心疾患を抱えた高齢者は、1~4週間程度の不活動でさえ、心血管機能と構造に有害な影響を与えるらしい。彼らは、このような高齢者への対策として、家庭で実施できる運動プログラムの開発を提唱している。
現在、日本を熱波とコロナ禍が襲っている。高齢者の健康を守るためには、きめ細かい対応が求められている。
連載:現場からの医療改革
過去記事はこちら>>