平野正雄(以下、平野):コロナ禍のマクロ環境の変化については、国や行政、社会、企業の“弱さ”が露呈した。米中の動きを見ても明らかだろう。日本では、行政や産業界、教育とそれぞれの革新の遅れによる後進性が露呈した。新型コロナのパンデミックは大変な災いだが、このコロナをカタリスト(触媒)と捉えて、社会も企業も変革を進めていくのが重要ではないか。本来取り組まなければいけない「デジタル化」「オープン化」の2つを強制的に進められていくだろう。
もう一つ、マクロ経済的な視点で言えば、日本における産業の新陳代謝が加速していくだろう。産業領域によってコロナ禍の影響に差が出ているし、同一産業内でも対応力の差が広がっている。産業の新陳代謝という、日本で滞っていた変革を加速する機会だ。
スパイラルキャピタルとしては、こうした社会変革、産業変革を実現していく有力なスタートアップを育てていくことが、まさに「今」重要なことだという認識だ。産業変革へのスタートアップの関わり方は2つある。大企業の事業領域に新しいビジネスモデルで参入する「アタッカー」型。大企業のパートナーとなり、新しいプラットフォームに置き換える「コラボレーティブ」型。どちらがいいということではなく、どちらも産業変革をドライブするプレイヤーとしてその成長を支援していく。
奥野:社内で、国内外の主要VCの今年1月〜6月の投資案件の傾向について分析したが、コロナ前後で目立った変化はなかった。リモートワークなどコロナ関連案件も一部見受けられたが、顕著に増えているわけではない。コロナはカタリストとして以前からある構造的な変化を加速しているに過ぎないということの証左だろう。今後も、X-Tech領域における構造的な変化にフォーカスし、産業変革を目指す企業へ投資していく方針は変わらない。
スタートアップと大企業との連携については、4月に投資先である電力比較サイトのエネチェンジが、大和証券グループ系企業らと110億円規模のファンドを組成するなど成功事例も多く生まれている。
平野:日本の大企業は独特の体質を持っている。これまで株主価値経営やコーポレート・ガバナンス改革で、トップダウン型の改革を推進していくメカニズムを埋め込もうと、マーケットも政府も動いてきた。しかしながら、基本的にはバランスシートにキャッシュを積んで安定的に経営し、時間をかけて変化していくことをモットーとしているように見受けられる。DXについても、同様の方向性ではないか。取り組みやすいところから取り組むと思う。そのため、進展のスピード感への懸念はある。我々の立場はその「加速」を支援することになるだろう。
さらに、日本の大企業の変革とともに、新しい産業群が育っていくことも大事だ。新しいプレイヤーがリーダーになる動きが、小売りやアパレル業界で起きているが、これは金融や製造業をはじめ別業界でも起きるだろう。全く新しい体質を持った新しいプレイヤーが台頭する。企業の変革、企業間の新陳代謝の両方が進んでいかないといけない。
岩瀬:「産業変革」について、ベンチャー側から大きな成熟した業界にチャレンジし、一方でグローバル企業の中で大企業の変革の難しさを見てきたという自負がある。3人のバックグランドの多様性がある中で、それぞれの経験を生かして、産業変革に挑戦するスタートアップの支援ができたらと思っている。