同社は、元マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、元カーライル・グループ日本共同代表を歴任した平野正雄会長、外資系投資銀行経験を持つ奥野友和代表パートナー、岩瀬の3人の経営体制になる。なぜ、岩瀬は次のキャリアにVCを選んだのか。その理由と同社の戦略について3人に聞いた。
岩瀬大輔(以下、岩瀬):新しいキャリアとしてVCを選択したのは、日本のスタートアップ・エコシステムが、コミュニティ、資金調達、タレントに層の厚さが生まれ、いよいよ動き始めたという感覚があるからだ。それは私がライフネット生命保険を創業した2008年当時と比較しても、大きく変わった点だ。
数多くの成功したベンチャー企業の事例が生まれ、成功した起業家が次世代を支援、応援する環境が生まれてきた。また、米国のように、大企業や外資系企業の勤務経験がある40代の起業家も出てきた。
さらに、従来から「足りない」と指摘してきた、知恵や経験を伴い企業の成長を支援する資金「スマートマネー」の供給も増えてきた。ライフネット生命保険創業時に132億円の資金を調達したことが話題を呼んだが、最近では数十億円単位の大規模な資金調達をする企業も珍しくなくなりつつある。VCは「世界を変える、社会を変える」意義ある仕事だと以前から考えていた。
その中で、スパイラルキャピタルは「産業変革に挑戦をするベンチャー企業を支援する」という戦略が自分のこれまでの経験に合致すると思い、参画した。生命保険という成熟した業界で起業したライフネット生命保険時代の10年間のベンチャー企業の経営者としての経験。その後の、時価総額ベースで世界最大の保険会社であるグローバル企業のAIAグループの本社経営会議メンバー兼チーフ・デジタル・オフィサーとしてデジタル変革に挑戦した経験が活かせると思っている。
奥野友和(以下、奥野):私たちは、「産業変革」をテーマに掲げ、X-Tech(ネットとリアルの融合)を重点投資領域としている。「産業変革」には強いこだわりがある。
投資銀行時代に、大企業同士の業界再編などに携わってきたが、バンカーとして接する大企業の幹部や経営企画の人たちが業界再編の話をしつつ、もう一方で新しいテクノロジーやベンチャーと連携してどう新しい価値提供するか、ということへの関心が高まっていることを感じた。業界再編よりも新しいテクノロジーによる産業変革のマグニチュードの方が大きいと思った。私がやりたかった「産業変革」の震源地はVCではないかと思い、VC設立へ至った。
我々の特徴は、スタートアップと大企業の連携支援だ。子会社でオープンイノベーション支援を手掛けるスパイラル・イノベーション・パートナーズにおけるCVC運営をはじめ、アクセラレーションプログラムの企画運営支援など、大企業がオープンイノベーションやベンチャー連携を進める際の、すべてのコラボレーションチャネルを支援する包括的なサポート体制を備えている。
また、平野、岩瀬といったシニアエグゼクティブを要するVCとして、意思決定レベルの大企業のマネジメント層に対して広範なアクセスがあることも強みだろう。すでに600社以上の大企業ネットワークがある。岩瀬にはこの文脈で参画してもらった。また、起業家としての成功体験に基づく起業家へのアドバイスにも期待している。