ファンドマネージャーから戦略コンサルタントへ転身した理由
「アクセンチュアはこれまで、通信やメーカー、インターネット企業など様々な業種からの金融参入を支援してきました。アクセンチュアには金融業界出身のプロフェッショナルが多く在籍し、参入にあたって必要な要素を提供することができ、クライアントとWIN-WINの関係を構築しやすいのです」。井上はこう自社を分析する。
大学では経済学を専攻していた井上。当時から趣味で株式投資も行っていたが、個人投資家と機関投資家の決定的な違いは、"情報の非対称性"であることを実感していた。圧倒的な情報量と資金力、体系化された分析方法に基づいた機関投資家の意思決定プロセスを学びたいと、大学卒業後は大手金融機関へ就職した。
入行後は希望通り資産運用の業務を担当。数百億円規模の債券ファンドの運用や金利・デリバティブのトレーディング業務は、金融のダイナミズムを感じられ、総じて楽しかったという。しかし、入行から5年を経て、井上は3つの理由からアクセンチュアへの転職を決めた。
理由の1つ目は「手触り感のある仕事がしたい」。パソコンのモニター越しに、短期スパンで不確実性が非常に高い勝負を続ける中で、企業や人と向き合った仕事がしたいと考えるようになった。
2つ目はDX(デジタルトランスフォーメーション)への興味だ。井上が最前線で運用を行っていた2013年以降、日銀のマイナス金利政策などを背景に金融機関は苦しい時期を迎え、コスト削減の一環としてDXへの対応に迫られていた。内部からその課題を把握していた井上は、金融業界全体を改善するような取り組みに興味を持った。
3つ目は、会社の看板なしで自立できるキャリアを思い描いたこと。機関投資家における情報の非対称性は、金融機関の看板があってこその武器である。今後のキャリアを展望したとき、看板がなくても活躍できる汎用的なスキルを身につけたいと思った。この3つを考えた時、当時すでに大手金融機関のDXを手がけ、コンサルティング業務にとどまらず成果物の納入まで手がけるアクセンチュアを、理想的な選択と考えた。
次世代決済プラットフォームを可能にした、クレジットカードのアライアンス戦略
入社後に手がけた仕事で印象に残っているのが、クレジットカード会社を中心としたアライアンス戦略に関わるプロジェクトだと井上は語る。
クレジットカード業界は決済システムを提供する国際ブランド、カード発行の主体となる企業、加盟店を開拓や審査・管理を担当する企業、決済代行会社などで構成されているが、その構造が非常に複雑だ。例えば顧客が店頭でカードを端末に通すと、多数の企業が絡む複雑なネットワークを経て、実際に決済が行われる。それ故に決済コストはかさみやすく、そして見えづらい。
井上が担当したプロジェクトでは、これらの関係する企業の組み合わせを最適化して、決済にかかるコストを最小化できるアライアンスの形態を探った。ここで井上は金融のバックグラウンドを活かして徹底したフィジビリティの検証を行った。結果として、次世代決済プラットフォームが具現化した。これを可能にしたのが、井上をはじめとするアクセンチュアのメンバーによる綿密なシミュレーションだった。
日本郵船との協業による電子通貨プラットフォーム「MarcoPay」
井上が関わった取り組みの中で、異業種×金融を体現する事業のひとつが、日本郵船と協業した「MarcoPay(マルコペイ)」だ。1885年に創立された老舗の船会社が、MarcoPayプロジェクトのパートナーとして選んだのがアクセンチュアだった。
目的は、電子通貨による船上での給与支払いや、決済のキャッシュレス化を可能にし、船員の利便性向上と船の安全運航を強化すること。これまで船員に対して支払う給与の大半は、航海中に船の上で現金にて支給されていたが、現金支給の場合、現金を代理店に運んでもらうコストや、現金を船長が管理しなくてはならないリスクが伴うとともに、船員にとっても支給された現金を長い航海中常に管理する必要が生じる。
船員は「MarcoPay」を利用することにより、支給された給与はスマートフォンにインストールされたセキュアなアプリで管理でき、長期に渡る航海中でも、家族に仕送りでき、寄港した土地で現金化し使用することもできる。
また、日本郵船の商船船員はフィリピン出身者が大半を占めているため、フィリピンの船員が給与の支払いを受けるだけではなく、保険、決済、なども金融サービスを「MarcoPay」を元にし、船員がフィリピン国内でも活用できるように、フィリピン政府にかけあった。
井上らが描いた理想を実現させるため、社内から各分野のエキスパートが集まった。戦略立案に留まらず、現地でのジョイントベンチャー立ち上げや、業務整備、ライセンス取得のための規定作り、そしてシステム構築など、多岐に渡るミッションをこなすため、戦略コンサルタントだけではなく、金融業界に特化した経営コンサルタント、テクノロジー領域に特化したシステムコンサルタントやエンジニア、さらに商品ロゴやサービス名を考えるインタラクティブ本部のデザイナーなど、アクセンチュアの総力が結集した。
井上は言う。「戦略コンサルタントが、絵に描いた餅をクライアントにお届けするのには条件がある。食(しょく)せる餅を作れること。アクセンチュアにはそれがある」と。
異業界のプロをコンサルのプロへと成長させる文化
金融業界からコンサルタントへ転職した井上に、不安はなかったのか。井上は入社当時のことを振り返り、「OJTについてくださった先輩が優秀で、考え方やコミュニケーション能力、資料の作り方、何をとっても素晴らしい方でした。自分と先輩とではギャップがありすぎて不安になったほどです」。そんな井上も、2年でマネジャーに昇進した。
「人の成長曲線は入社直後からの1年が最も大きい。乗り遅れないように、この先輩から言われたことはすべて実践しました。先輩は『仕事は絶対18時までに切り上げなさい、できなかったら理由を徹底的に考えなさい』と言いました。自分のワークプランが甘かったのか、思考の部分で時間を使ったのか、作業の部分で時間を使ったのか、徹底的に考えて自分の弱点を明確にするのだと」。
次のステップは「金融を軸とした異業種の支援」
最後に、井上は今後のキャリアの展望について語ってくれた。「アクセンチュアには異業種の金融参入を支えてきたノウハウが蓄積されています。今度はそれを金融機関へと還元したいと考えています。異業種からの金融参入に加えて、金融によって異業種を支援すること、この2軸で貢献していけたらと考えています。金融機関は従来、融資という形で企業の資金面を支援していますが、デジタル技術を活用し非金融機能と金融機能を融合させた新たな形で企業を支援する形を作りたいと思っています」
さらに井上は続ける。「アクセンチュアは、お客様とジョイントベンチャーを作るなど、サービス提供だけでなく資本を入れて一緒にリスクをとりながら協業できる。それは大きな強みです。今後は事業会社だけではなく、金融機関のお客様ともこの取り組みを行い、コンサルタントを超えたビジネスを展開してみたいと思っています」。
金融業界全体に貢献できる仕事を追及したいとの想いでアクセンチュアに入社した井上。コンサルタントの枠だけに収まらず、アクセンチュアの組織力を活用してさらなる貢献のために次を見ている。
▶アクセンチュア 戦略コンサルティング職(ストラテジー)採用ページ