世界のオゾネが「どこでもドア」から降臨。劇場という奇跡

撮影:小田駿一

今回のコロナ禍で不足したもの。それはマスクや消毒液だけではない。「人とのコミュニケーション」もそのひとつだ。学校は休校、会社も在宅、店は休業。イベントは中止、ソーシャルディスタンスを保ち、不要不急の外出は避ける。人と会って話をする機会はほとんど失われた。日常に疲れ、閉塞感を覚えた人も多いだろう。なんてことのない話が、実は日常で大きな息抜きになり、気分転換になっていたことを知った。

そのようななか、インターネットを利用したコミュニケーションが急速に発達した。オンラインコンサートもそのひとつだ。

ジャズピアニストの小曽根真氏と妻で女優の神野三鈴氏は、緊急事態宣言発令の2日後にあたる4月9日から53日間連続でオンライン自宅コンサートを配信。最終日には、今回のインタビュー会場にもなった渋谷・オーチャードホールに場所を移し、1日で1万7千人もの人々を魅了した。その毎夜のコンサートは、ユーチューブでのアーカイブで8月31日まで楽しむことができる。

コミュニケーションが人に与える力やリビングルームコンサート終了後について聞いた。

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寝たきりだったイタリアのおばあちゃんがピアノを弾き出した


「あらゆるコミュニケーションが遮断されたなか、今回のリビングルームコンサートでは、私たち夫婦のくだらない会話やコメントを通じた観客の方同士の交流など、毎晩同じ時間にかならず誰かとコミュニケーションが取ることができた。それってすごく大事なことではないでしょうか。同時に、私たちにとっても非常にありがたい時間でした」(三鈴氏)

毎晩、22時にコンサートが終わると、ふたりはワイングラスを片手に、配信中に寄せられた1万件近いコメントを一つひとつ確認していった。「真剣に読むからふたりで無口になってしまって。ときにはつい涙ぐんでしまうこともありました」(小曽根氏)

「気分が沈みがちな日々、この1時間に救われた」「子どもを怒ってばかりの毎日だけど、この時間だけはほんの少しだけやさしくなれた」などの投稿を見て、「音楽にはこんな力があるのだ」とあらためて教えられた、と三鈴氏は言う。

寝たきりだったイタリアのおばあちゃんが、リビングルームコンサートを聴くうちに元気になり、突然ピアノを弾き出したというエピソードも。音楽の力がネットを通じて世界の垣根を軽く飛び越え、人を動かした瞬間だ。
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文=柴田恵理 撮影=小田駿一 編集=石井節子

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