新生児の世話をする親や保育者にとって、乳児に栄養を与えて健康を維持するために欠かせないのが乳児用粉ミルクだ。
乳児用粉ミルクの市場規模は470億ドルにのぼる。この市場では、ダノン(Danone)、ネスレ(Nestlé:傘下のガーバー[GERBER]が粉ミルクを生産)、アボット(Abbott:商品名はシミラック[SIMILAC])、ミード・ジョンソン(Mead Johnson:商品名はエンファミル[ENFAMIL])などのメーカーが、できるだけ母乳に近い粉ミルクを生産しようと取り組んでいる。
とはいえ、それは決して容易ではない。母乳には、乳糖(ラクトース)や脂質に加え、数百種類もの成分が含まれている。その内容は母親によってさまざまであるうえに、授乳ごとでも変化するのだ。
そうした成分のひとつがラクトフェリンだ。ラクトフェリンは、母乳に含まれるたんぱく質のなかで2番目に多い。抗菌作用と抗ウイルス作用を持ち、新生児が免疫機能を作る際にとりわけ重要だ。さらに、母乳に含まれる鉄分の吸収を助ける働きも持つ。
ところが、乳児用粉ミルクにラクトフェリンを配合するのはそう簡単ではない。多くの粉ミルクには、代わりにウシ(牛)ラクトフェリンが配合されているが、理想的だとは言えない。ウシラクトフェリンは牛乳から抽出されるのだが、その精製工程はお金がかかるうえに、ほかの栄養素を除去してしまうからだ。
マサチューセッツ州ボストンのバイオテック企業が密集する地域にある合成生物企業コナジェン(Conagen)は2020年3月、母乳に含まれるラクトフェリンにきわめて近いラクトフェリンを生産するプロセスを開発したと発表した。同社の研究者らは、バイオ技術を用いたラクトフェリンの発酵プロセスを開発。そのプロセスは、パンやチーズ、ワインの発酵過程と同様であり、より質の高いラクトフェリンが生産できるという。
そのため、コナジェンのラクトフェリンは、ほかの代替成分と比べると、その効能が母乳にきわめて似ている。バイオ技術で処理されたこの成分によって、乳児用粉ミルクはかつてないほど母乳に近づくかもしれない。