ビジネス

2020.08.17 07:00

ルミネと現代アーティストの協業は、いかに形になったのか?


2018年に「NEWoMan」で松山が個展を開いてから、ルミネ社内で今回のコミュニティスペースを作る構想は固まっており、以来、松山はずっとルミネ代表取締役社長の森本雄司氏から理解を得ることに注力してきた。

「西洋と東洋」、「古典とポップカルチャー」など、相反する要素を作品に昇華する松山のスタイルが、新宿の「オフィス街と繁華街」という多種多様な人が集まるカオスを表現することにもぴったり適していた。

「だから、森本さんから僕のNYのブルックリンのスタジオを訪問したいとご連絡をいただいた時には、ようやくゴールまでの道筋が明確になると嬉しかったですね」


ステンレスで作られた「花尾(Hanao-san)」のモチーフは、「花束を持っている人物像」。マルチアングルで成立する作品となっている。

協業が決まってからコミュニティスペースがオープンするまでの道のりも、決して平坦なものではなかった。

コミュニティスペースのコンセプトが決まり、シンボルとなるモニュメントの設計図が完成したのが2020年の頭。世界有数の彫刻工房の中国支社での制作が決定していたが、松山が中国を訪れる直前の2月、新型コロナウイルスの感染が広まった。中国の工房は一時稼働をストップし、再開したのは3月のことだった。

再開以降は、松山がNYのスタジオと中国の工房、日本の設計会社、米国にある彫刻工房のオフィスとをZoomでつなぎ、工房スタッフへ指示を出すという工程が取られた。

こうしてステンレスの彫刻はそれぞれの部品が新宿の広場まで運び込まれ、ようやく現場での設営をスタートすることができたのだ。

ルミネや東日本旅客鉄道、ゼネコン、設営業者など、多くの関係者を巻き込み形になった広場の中心で、「やっぱり、でかいですね」と清々しい表情で「花尾(Hanao-san)」を見上げながら最後に松山はこう言った。

「アートが持つ本質的な役割の一つは、実社会において作品を通して人と人との対話を作り出すこと。コロナで移動が制限され、人々がローカルの視点を取り戻している今このタイミングで、東京から発信できることに改めて意義を感じています。新宿という、東京のカオスを表したこの作品を見た多くの人に、アートが持つ力を少しでも感じてもらえると嬉しいですね。

そしていつか、新宿に足を運ぶ人たちの間で、『花尾さんの前で待ち合わせね』、というような言葉が浸透してくれたら。日本でアートがより身近な存在になることが、僕の願いでもありますからね」


(C)Shin Okishima 

松山智一
◎1976年、岐阜県出身。幼少期の3年間をLAで過ごす、上智大学、プラット・インスティテュート卒業後、アーティストとしての活動を始める。2009年、世界最大級のアートフェア「アートバーゼル」に出展、現在に至るまでに、松山の作品はアメリカ、メキシコ、ドバイ、香港、中国など、世界各地の美術館やギャラリーで展示されている。

文=守屋美佳

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