ビジネス

2020.08.17

ルミネと現代アーティストの協業は、いかに形になったのか?

コミュニティスペースのコンセプトは、「Metro-Bewilder(メトロビウィルダー)」。Metro(都会)、Wild(自然)、Bewilder(当惑)の3つの語を合わせた造語だ。

JR新宿駅を南口から外へ出て、東口方面へ足を進めると、これまでそこにはなかった大きなモニュメントが目に飛び込んでくる。

「ルミネエスト新宿」前に、7月19日に完成したコミュニティスペースのシンボル「花尾(Hanao-san)」だ。高さ7mもの彫刻の足元は植物で覆われ、彫刻を取り囲むカウンター席では、ビジネスパーソンやカップルたちが思い思いの時を過ごしている。

このコミュニティスペースは、現代アーティスト・松山智一がプロデュースし、ルミネと東日本旅客鉄道が共同でオープンをさせたものだ。

なぜ、NYを拠点に活躍する松山が、両社と協業することになったのか。そこには、アーティストとしての芸術性だけではない、彼ならではの強みがあった──。


ルミネが企業として、現代アーティストを支援してきた土壌があったことを考えれば、今回の協業自体は驚くべきことではない。

2013年からは、受賞者に賞金100万円と、一定期間中ルミネ館内に作品を展示する権利が与えられる、『LUMINE meets ART AWARD』を主催してきた。2016年にオープンした「NEWoMan」内のイベントスペースでは、若手アーティストたちの展覧会が定期的に行われている。

松山も、過去にはルミネ館内に作品を展示し、2018年に日本では11年ぶりとなった個展「Same Same, Different」を開催した。

両者にこうした断続的なつながりがあったとはいえ、ルミネが支援をしてきたアーティストは他にも多くいる。松山が画家でありながら、立体作品もこれまでに多く手がけてきたという実績もあるはずだが、やはりそれだけでは今回の協業は実現しなかったのではないだろうか。

「25歳からNYを拠点に活動をしてきましたが、いつか日本で自分のアートを多くの人に見てもらいたい、この国でアートをより身近な存在として浸透させたいという気持ちを強く抱き続けてきました。そして、キャリアの大半をアートの中心地で生きてきたらからこそ、自身の思いや、作品の魅力をプレゼンテーションする力にも自信があります」

まだKAWSやバンクシーも多くの人に知られていなかった2005年、彼らが壁画を残したNYのウィリアムズバーグで、もっとも大きな壁を持つ店のオーナーに直談判をして、そこに作品を描くことで、アーティストとしての存在を示した。

そして、NYの壁画の聖地として知られる「バワリーウォール」に作品を描くため、ここでも松山は所有者である「ゴールドマン・プロパティ」との関係性を構築してきた。


バワリー・ウォールの松山の壁画は、当初、2019年9月から期間限定で展示される予定だったが、評価が高く、史上最長記録を更新し現在も展示されている。

今回のルミネと東日本旅客鉄道との協業の裏にも、そんな彼らしいストーリーがあったのだ。

「僕はアーティストですから。会社組織の複雑なコミュニケーションルールに則るのではなく、アーティストとしてアイデアをダイレクトに伝えることでクリエイティブの純粋性を維持することに挑戦しました」
次ページ > オープンするまでの道のりも、平坦なものではなかった

文=守屋美佳

ForbesBrandVoice

人気記事