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実は、『COUNTDOWN 1945』は、ジャーナリスティックな出来事の記述にそのほとんどが割かれており、原爆投下の倫理性については突き詰めた議論は展開されていない。次に抜き出した本書の結論部分などは、投下を支持したトルーマンの判断に対しても「戦争を早く終わらせ、結果的に多くの人を救ったのだから仕方なかったのだ」という、これまでにもよくあった主張をただ踏襲しているだけのように思える。

「原爆投下は正しかったのかということに疑問はあるものの、トルーマンに他の選択肢があったと考えることは非現実的だ。前任のルーズベルトが3年前に承認していた計画について、トルーマンは何も知らされることなく大統領に就任した。


1945年8月、原子爆弾が投下されたあとの広島の街(Getty Images)

すでに10万人以上がその計画のために雇われ、20億ドルが費やされており、就任から3カ月後には原子爆弾の実験が成功していた。軍司令官たちは、日本との戦争が続けば少なくとも25万人のアメリカ人が死亡し、50万人が負傷すると見込んでおり、戦争はさらに1年以上続くことになるだろうと伝えていた。その状況でトルーマンは、それらの命を救い紛争を終わらせる手段を握っていたのだ」

『COUNTDOWN 1945』では、戦争終結のための選択肢は、本土決戦か原爆投下の2つに1つであったという論調が貫かれているが、これについても私たち日本人には考えさせられる点がある。たとえば長崎への2回目の原爆投下についてはどうだろうか。広島への原爆投下について日本側が理解する間もないたった3日のあいだに、再び無警告で長崎への原爆投下を行ったことは、広島の原爆以上に正当化しえない殺戮だったのではないか。

米有力紙「日本に原爆を落とす必要なかった」


ロサンゼルス・タイムス紙は、2020年8月6日の広島平和記念日にあわせて、「U.S. leaders knew we didn’t have to drop atomic bombs on Japan to win the war. We did it anyway」という論説を掲載した。「日本に原爆を落とす必要はなかった」という主張がアメリカの有力紙に掲げられるのは異例のことである。

歴史家のガー・アルペロビッツ氏とジョージ・メイソン大学教授のマーティン・シャーウィン氏の共同寄稿となるこの記事の中では、「アメリカと日本の公文書から得られた歴史的証拠は、たとえ原爆が使用されていなかったとしても、1945年の8月中に日本が降伏していたことを示している」と主張がなされている。

また、最近では、29歳以下の若年層に限定すれば、アメリカでも原爆投下は「間違っていた」と考える人たちは多いという。逆に「正しかった」と考える人々は、65歳以上の白人男性、共和党支持者に多く、若年層の回答を見ればアメリカの世論も変化しているという指摘もある。

日本の、全国の被爆者は3月末の時点で13万6682人。昨年度1年間で亡くなった被爆者は9254人に上っている。被爆者の平均年齢も83.31歳で、前の年より0.66歳高くなっている。


2020年の広島平和記念式典の様子。新型コロナの影響で来場者には社会的距離が求められた(Getty Images)

世界へ向けた原爆体験の伝承が途絶えてしまう恐れもあるなか、『COUNTDOWN 1945』という書の刊行をきっかけに、現代のアメリカ人がどのような歴史認識を持っているかについても、私たちは真剣に向き合う必要があるのかもしれない。

(『COUNTDOWN 1945』日本語版の刊行は未定)

文=渡邊雄介

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