JリーグのPCR検査体制に疑問 無症状の陽性者がピッチに立つ可能性も

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陽性判定が出た選手だけでなく、その選手の濃厚接触者、あるいは濃厚接触者と見られる選手も公式戦にはエントリーできない。行動履歴を保健所へ提出し、判断を待つ時間的な余裕は皆無に等しかった。キックオフ7時間前に中止となった、先月26日のサンフレッチェ広島対名古屋グランパスとまったく同じ理由で、コロナ禍の影響による2度目の中止が決まった。

一夜明けた3日になって、福岡は今度はキャプテンのMF前寛之から陽性判定が出たと発表した。中止とした判断は正しかったことになるが、2日間で起こった3つの事態から浮かび上がってくるのは、Jリーグの公式検査体制が、新型コロナウイルスの感染再拡大のスピードに追いついていない現状だ。

問われるJリーグの公式検査体制


金曜日をメインに2週間ごとに、56を数えるJクラブの選手およびスタッフの検体を採取するJリーグの公式PCR検査は、翌週の水曜日以降の2週間に行われる公式戦へ出場するうえで、安心安全を担保するために設定されている。7月30日と31日の第4回公式検査で言えば、8月5日以降の2週間が対象になる。

しかし、検査実施日と5日の間に行われる公式戦との間に数日のタイムラグが生じたことが、今回の事態の混乱につながった。仮定の話になるが、晴山がU-19代表のトレーニングキャンプに招集されなければ、陽性は4日にまるまでわからなかったのだ。この点を町田の大友健寿代表取締役社長はこう語る。

「代表の合宿があって初日にPCR検査ができたわけですけど、これが(代表合宿に呼ばれずに)京都の試合で(晴山が)遠征メンバー入りしていたらと想像すると、怖いものがあります」

Jリーグの公式PCR検査の実施が決まった5月下旬は、全国に発令されていた緊急事態宣言が全面的に解除され、新規感染者数も落ち着いていた時期だった。対照的に現在は、東京都や大阪府などの大都市圏を中心に感染が再拡大している。初の中止となった広島対名古屋も、後者のDF宮原和也が発熱の症状を訴え、クラブが独自に実施したPCR検査で陽性反応が出たことがきっかけだった。Jリーグの公式検査の在り方が、あらためて問われていると言ってもいい。

公式検査で生じるタイムラグを補う施策として、JFAがU-19代表のトレーニングキャンプで実施したSmartAmp法と呼ばれる簡易検査の導入を、実は村井チェアマンも視野に入れている。1時間ほどで判定結果が出るSmartAmp法とPCR検査を併用する方法を「大至急、検討に入りたい」と同チェアマンは明言した。

「例えば、試合会場で試合開始前に検体を採取して、検査スピードが非常に速いSmartAmp法と、それで絞り込まれた選手やスタッフへPCR検査を実施する併用も十分にありえることを、今回のJFAの判断に学びました。トータルの実効性とコストなど、さまざまな情報を収集します」

しかし、そうしている間にも、またJ2のFC琉球、徳島ヴォルティスから2人ずつ、計4人の選手から陽性判定が出た。ともに8日のリーグ戦は予定通り実施されたが、今度は金監督をはじめとする鳥栖のクラスターが発生し、保健所の要請を受ける形で鳥栖は2週間をめどに活動を休止している。

長期中断を余儀なくされた2月から続く見えない敵との戦いは、待望の再開から1カ月あまりで、にわかに風雲急を告げる段階へと突入している。

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文=藤江直人

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