ビジネス

2020.08.13

「すべてを疑え」 仮想通貨の混沌を金にする

マルチコイン・キャピタル創業者のトゥシャー・ジェインとカイル・サマニ

暗号通貨に投資するマルチコイン・キャピタルの創業者で共に29歳のトゥシャー・ジェインとカイル・サマニはマンハッタンにある洒落たカフェのテーブルに横並びで座り、コールドプレスされた一杯9ドルのパイナップルとニンジンのジュースを飲みながら、ショートしているデジタル通貨の動きを見守っている。

このデジタル通貨が暴落すると、2人は数百万ドルの利益を手にすることになる。「Zcash(ジーキャッシュ)の価値はこれから2年以内にゼロになるとみています」。サマニは3年前に誕生し、高い匿名性を実現した暗号通貨、Zcashについて、そう語った。現在、Zcashは66ドルで取引されている。

調査によると、Zcashユーザーの中で、そのコアとなる匿名性テクノロジーを有効活用しているユーザーはほぼ皆無である。 さらに悪いことに、イーサリアムをはじめとする他の暗号通貨プラットフォームがZcashの匿名性テクノロジーを真似ようとしている。だが、Zcashの広報担当者は「匿名性を保ったまま、資金をやり取りしたいという希望に応えられるのはZcash以外にありません」と反論する。

マルチコイン・キャピタルはテキサス州オースチンのレディ・バード湖を見下ろすことができるオフィスで暗号資産に投資するヘッジファンドを運用している。預かり資産はマーク・アンドリーセンやフレッド・ウィルソンが率いるユニオン・スクエア・ベンチャーズなど、ベンチャーキャピタルからの出資金を元手にした1億ドル。投資は幅広く取引されている11通貨だけに限定しているが、それ以外にも非上場の暗号資産スタートアップ20社にも出資している。同社のパフォーマンスに詳しい関係者によると、過去2年間でマルチコインのファンドはグロスで143%のリターンを生み出してきた。

情報開示が進んでおらず、注目度の高さや派手な値動きが価格を大きく左右するこの暗号通貨市場で、2人はデータ分析とクラウド・ソースによるリサーチを駆使して、トレードを行っている。だが、サマニとジェインにとって、成功のカギは入手した情報のあらゆる側面を疑ってかかることだという。「暗号通貨の世界では、情報の受け止め方がある意味、宗教的です。

『信じろ、とにかく信じろ、永遠に信じ続けろ』といった具合です。しかし、言われたことをそのまま信じ込むというのは、私たちにとってあり得ないことです」。


トゥシャー・ジェイン、カイル・サマニ◎インド生まれのジェインはニューヨークのクイーンズ区アストリアで育ち、両親はマンハッタンのローワー・イーストサイドで衣料品店を経営している。サマニはテキサス州オースチンの裕福な地域の出身であり、2008年にニューヨーク市立大学(NYU)でジェインと出会った。2人は共に金融を専攻。

文=ジェフ・カウフリン 写真=ジェフ・ウィルソン 翻訳=松永宏昭

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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