ビジネス

2020.08.11

脅威の顔と名前を見せる。新聞配達の少年が「サイバー戦士」になるまで

クラウドストライク共同創業者 ジョージ・カーツ

1年前、「クラウドストライク」は世間にあまり知られていなかったし、このサイバーセキュリティ会社の共同創業者であるジョージ・カーツ(49)も、それで構わなかった。

状況が一変したのは2019年9月、トランプ大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領による電話会談の編集済みの記録が公開された際のこと。その中で2人は、クラウドストライクに言及していたのだ。同社は過去に民主党全国委員会(DNC)の依頼で、16年の米国大統領選中のロシアによるハッキングについて調査していた。トランプ大統領は、同社がDNCのサーバーをウクライナ国内に隠していると主張し、ゼレンスキー大統領に調査するよう圧力をかけたのだ。

「会社を立ち上げたときは、2人の国家元首の口に上ることになるなんて思ってもみませんでした」と、カーツは言う。ちなみに、クラウドストライクは不正な行為は何一つしていないし、ウクライナにサーバーを設置したこともないという。

「私たちにとって最善の道は、目立たないようにセキュリティ侵害の阻止に集中することですからね。それ以外は、雑音のようなものです」

米カリフォルニア州サニーベールに拠点を置く同社は、ファルコンと呼ばれるクラウド型セキュリティ侵害検知ソフトを提供し、顧客のシステムにハッキングの痕跡がないかスキャンする。これは、かなり収益性の高い事業になり得る。

利用するには、DNCのように、単発で特注の調査を実施させることも可能だが、アマゾンやクレディ・スイスをはじめとする4000社の顧客は、コンピュータ1台につき8ドル99セント(約960円)の月額料金を支払ってシステムを監視させ続けている。こうした事業の収益は、20年1月31日までの会計年度で前年比約86%増の4億6500万ドルとなる見込みだ。

同社の株価は19年6月のIPO(新規株式公開)以来、変動を繰り返しているが、それでもカーツが保有する10%の株式は約8億ドルに相当する。今回のコロナ禍で株価が下落し始めるまで、彼はビリオネアだったのだ。

ニュージャージー州パーシッパニーで育ったカーツは、裕福な生まれではない。2人兄弟の弟であるカーツは、7歳のときに父親を脳卒中で亡くした。一家は、しばらくは父親の生命保険金で暮らしていたが、カーツは7年生(日本の中学1年生に相当)で、初めての仕事としてニューアーク・スターレジャー紙の新聞配達少年になった。

「新聞は週1ドル25セント、集金で1ドル50セントもらうと25セントのチップになりました。そのときの自分には結構な額でしたよ」

当時について、カーツはそう語る。そんな彼がサイバー戦士への道を歩み始めたのは、シートン・ホール大学で4年間学んだ後、プライス・ウォーターハウスで期限付きの職にありついたときだ。
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文=エンジェル・オウヨン 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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