だが「都市封鎖せず」と独自路線の新型コロナウイルスソフト対策を貫き、一時は世界の注目を集めたスウェーデンの現状については、あまり多くの報道がされていない。
Forbes JAPANで5月、6月、多くの反響を集めた「スウェーデンのコロナ対策」関連の記事に、スウェーデン在住の医師、宮川絢子博士に聞いた「スウェーデン新型コロナ「ソフト対策」の実態。現地の日本人医師はこう例証する」と「スウェーデンの新型コロナ対策は失敗だったのか。現地の医療現場から」 がある。
宮川博士は、スウェーデン・カロリンスカ大学病院・泌尿器外科勤務の医師で日本泌尿器科学会専門医であり、スウェーデン泌尿器科専門医(スウェーデン移住は2007年)だ。
カロリンスカ大学病院はスウェーデンで最多の感染者、犠牲者を出したストックホルムにあり、国内で最多の感染者治療を行なった医療機関である。ピーク時には感染者の治療も担当した医師としての経験と多くのデータに裏付けられた検証にもとづき、宮川博士に再びご寄稿いただいた。今回はその前編である。
データで見るスウェーデンの現状
新型コロナウイルスパンデミックにおいて、ロックダウン政策を取らず、人口あたり世界上位の死者数を出してしまったスウェーデンにおいても、感染第1波は収束した。ロックダウン政策を選択し、その後ロックダウンを解除した国では、すでに第2波が始まりかけているところも多くあるが、スウェーデンでは今のところ感染の再拡大はみられていない。
スウェーデンで最も多くの感染者及び犠牲者を出した首都ストックホルムの、最も多くの感染者の治療を行なったカロリンスカ大学病院で、ピーク時には感染者の治療も担当した医師としての経験から、スウェーデンの現状をアップデートしてみたい。
スウェーデンの新型コロナウイルス感染対策は、「長期間継続することが難しいロックダウンという方法を取ることなしに、ソーシャル・ディスタンスを取り、高齢者を隔離することで感染のピークを抑え、医療崩壊を回避すること」であった。また、国民一人ひとりが感染対策に責任を持ち、自主性に任せるという、中央と国民の信頼関係に基づいたものであった。
図1:日毎の死亡者数の推移
しかしながら、これまで、スウェーデンでの死者は5700名を超えた。100万人あたりの死亡者数は570名であり、日本の約70倍にもなる。多くの犠牲者を出したが、毎日の死亡者数は、4月中旬をピークに減少してゆき、現在は、1日数名となった(図1)。