急増する「高齢者の孤独」、今考えたい遠隔診療の有効活用

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世界中を吹き荒れる新型コロナウイルス感染症のパンデミックについて、議論の余地がまったくない点がひとつある。もっとも大きな影響を受けているのは高齢者だという点だ。

感染拡大の警告が出るたびに、また予防対策の詳細が明かされるたびに、高齢者たちは自主隔離し、外出を控え、人との接触を避けるよう叫ばれる。そうなると当然の結果として、高齢者は孤独に陥ることになる。

高齢者の孤独は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生する以前から問題となっていたが、今ではそれが悪化している。私たちに何ができるのだろうか、という問いは多くは口先だけに終わり、密かに増えつつある孤独な高齢者を救う対策にはあまり関心が払われていない。

かつて公衆衛生看護師として働いていた筆者は、高齢者の孤独を目の当たりにし、そうした孤独が広範囲に及んでいることを実感してきた。数えきれないほど多くの高齢者を訪ね、数多くの訪問介護をこなしてきたことで、真実が明らかになった。新型コロナウイルス感染症の発生前からすでに、人との交流が少なくてメンタルヘルスを良好に保てない高齢者は多数存在していたのだ。筆者が週に1度、訪問看護で訪れるときが、患者にとって人と直接顔を合わせる唯一の機会だったケースもあった。胸が張り裂けるような思いだった。

もしかしたら、あなた自身の年老いた親たちや大切な家族が、自宅や高齢者介護施設の自室から出られず、日常生活の営み一切から切り離されているかもしれない。多くの地域には高齢者センターがあり、普段であれば高齢者がともに食事を楽しんだり、何かのレッスンを受けたり、ゲームに興じたり、グループ活動をしたりする機会を提供しているが、現在は閉鎖されている。そこで働くスタッフやボランティアなどと、重症化リスクの高い高齢者とが接触する危険性はあまりにも大きい。残念ながら、新型コロナウイルス感染症は感染力がきわめて強いのだ。

電話をかけたり、感染対策を万全にしたうえで訪ねて行ったりする以外に、高齢の親を支えるために私たちにできることとは何だろうか。まずは、頻繁に訪ねること自体が危険だ。食料品の買い出しという生活に欠かせない場合を除いては、避けたほうがいい。

一方で孤独は、健康にとってきわめて有害である。孤立は、たとえ高齢者の生命を救うために必要になってしまうとしても、健康面で悪い影響をもたらすことが知られている。さらなる支援が可能な場合には、孤独を放置するよりも、もっと役立つ手段がある。

精神科医の力を借りると、大いに役立つことがある。とはいえ、高齢の親がこれまで一度もそうした手段に頼ろうとしたことがない場合は、どうやって説得すれば、孤独を和らげるのに効果的かもしれないことをわかってくれるだろうか。そうした親に対して、精神科医の診察を受けるよう言えば、「とんでもない」という答えが返ってくるのが普通だろう。

メンタルヘルスを維持するために医師の力を借りるよう、さりげなく伝えても、聞こえないふりをされるのがおちだ。高齢者は、それ以外の世代と比べると、セラピストに相談するという考え方に対する抵抗感がはるかに大きいことが多い。メンタルヘルスに関して医者に頼るのは恥であり、ふがいないことだという思いは、今の高齢者世代のなかに根強く残っている。そんなことをするのは「頭がおかしい人」であり、「自分は大丈夫」という答えが返ってくるかもしれない。
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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