急増する「高齢者の孤独」、今考えたい遠隔診療の有効活用

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けれども、今回のパンデミックでは変化が起きている。多くの地域では、患者が医療機関に出向いて医師の診察を受けることが一時的にできなくなったか、あるいは限定されたため、保険会社は、デジタルを使った医療サービスをカバーせざるを得なくなっているのだ。以前なら保険会社に支払いが拒否されていた遠隔医療が、新たに注目を浴びている。

その一例を挙げよう。筆者の夫で医師のミコル・デイヴィス(Mikol Davis)は、数十年前に精神科医として開業して以来、患者の対面診療を行ってきた。彼の患者のなかには、医療費をメディケア(高齢者向け公的医療保険制度)でカバーしている人がいる。新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生するまで、メディケアは遠隔医療、要するにオンライン診療への支払いを頑なに拒んできた。しかし今では、セラピストは何の問題もなく、メディケアに医療費を請求し、メディケア受給資格を持つ患者のオンライン診療報酬を受け取れるようになっている。パンデミックをきっかけに、制度が進化したのだ。

筆者はデイヴィスと、遠隔医療のプラス面やマイナス面を話し合っているうちに、患者のなかには、セラピストを相手に対面で診察を受けるよりも、コンピューター画面を通したほうが気後れしない人がいることがわかってきた。その理由は次のようなものだ。

ひとつめは、場所だ。一般的に考えて、診察を受ける際により落ち着けるのは、自分の領域であり、ひとりになれる自宅のほうだ。診察を受けに他人の領域に足を運ぶ必要がなく、患者は思い通りに行動しやすくなる。

次に、秘密が完全に守られることだ。メンタルヘルス専門家の治療を受けるのは恥ずべきことであり、とにかく情けないことだと考えている人にとっては、精神科診療所に出入りしているところを誰にも見られないので安心できる。身支度を整え、車で診療所にたどり着き、待合室で順番待ちをする必要もない。

最後の理由は、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)や、マスク着用によって、個人的なコミュニケーションを制限されずに済む点だ。顔の表情は、セラピストにとっても患者にとっても、欠かすことができない意思疎通の手段である。この点、コンピューター・スクリーンを通したオンライン診療は十分に安全だ。

すべての人が、メンタルヘルスを維持するために専門家の力を必要としているわけではない。しかし高齢者の多くは、信頼できる人による、親切で配慮の行き届いたサポートによって、よい結果が得られる可能性がある。心理学の世界では、トラウマとなった経験について、訓練を積んだ専門家と語り合ったほうがうまく対処できるというのが定説だ。

筆者は、高齢者介護者たち向けの相談サイト「AgingParents.com」で、一人暮らしの高齢の親を持つたくさんの人たちの相談に乗っている。彼らは、大切な家族が孤独で憂うつな暮らしを送っているのに、自分には何もできそうもないのが悲しいと吐露する。筆者はそうした人に対して、高齢の親を支える手段を広げてみてはどうかと提案している。高齢の親を心配する子どもは、遠隔診療に対応しているセラピストを探し、親にこうしたセラピストに電話をしてみるよう促したり、診療を予約してあげたりするといい。一歩前進できる。

その一方で、私たちはみな、喪失感や孤立感に苛まれ、人と切り離されたような感覚に陥っている。おまけに、その終わりがはっきりと見えているようには思えない。孤独を抱えているのは、高齢の親だけではないのだ。遠隔診療によるメンタルヘルス支援は、コンピューターや携帯電話を使える人なら誰でも利用することができる。

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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