企業成長の時間軸をどう見るかが重要
石丸:正直に話すと、同業者からは「無理でしょう」という声もありました。
弁護士ドットコムのような、業界を変えていこうというプラットフォーム、たとえばカカクコムや食べログなどが軌道に乗るまでには、とにかく時間がかかるものなんです。ユーザーが「こういうサービスは大事」「便利だな」と思ってくれていても、業界内の認知が行き届き、サービスの良さが多くの人に知られるまでには、どうしても時間が必要です。
ある段階に到達して機が熟すと、やっとヒッティングポイントがやってくる。でも、そこに至る前に、多くの起業家は諦めてしまうんです。低空飛行が何年も続きますからね。当時、弁護士ドットコムは、その状況をやっと乗り越えた時期でした。
アコード・ベンチャーズ 石丸文彦氏
元榮:8期連続で赤字を続けるという苦しい期間もありました。それでも続けられたのは、ユーザー数が増えるにつれて「弁護士ドットコムのおかげで助かった」「良い弁護士に出会えた」と、感謝の声が続々と集まってくるようになったんです。
これを見て、「たしかに今は赤字かもしれないけれども、社会にとって必要な、望まれているサービスなんだ」と信じることができました。
石丸:投資家は、投資先に対して、つい「急成長」を求めたくなるものです。でも、企業の成長の度合いというのは、タイミングややり方、そしてビジネスによっても異なるので、その企業の成長の時間軸をどう見積もるかとか、お金にどう変えるのかという部分をどうするべきなのかといった点を考えます。投資をしたら直ちに業績が延びるかと言ったらそうではないわけですから。弁護士ドットコムのトラフィックや売上も、しばらくはフラットな時期が3〜4カ月続きました。
当時、私自身が、カカクコムのノウハウを持っていると言って参画しておきながら、実態としては大したことができていないと感じていました。さらに、弁護士ドットコムへの投資は社内でもかなりの無理を言って通したものでしたので、失敗ができないという思いもあったんです。
そこで、当時の田中実社長や、食べログの責任者である村上さんと、カカクコムのSEOを熟知している結城晋吾さんに声をかけて協力してもらうことにしました。彼らに参画してもらうことで、ただちに効果が数字として現れたということではなくて、組織の中に、彼らのような人材が評価されるんだという新しい風を吹かせたというところがよかったと思っています。
私が出したこうしたパスを、元榮さんはうまく受けてゴールに流し込んでくれました。投資家としていろいろな企業にパスを出しますが、パスを出しているのにパスが出ていることに気がつかない人や、次につながらなかったり、受け取らなかったり、そういう人も多いんです。
紹介された後も人間関係を維持して、ここぞというタイミングでシュートを決めることができるのは、起業家の大事な要素だと思います。成功する起業家とあまりうまくいかない起業家、そこには大きな差があるように見えますが、大体のケースにおいて起業家が見ているものや触れているものの機会は、そんなに変わらないはずなんです。人との出会いやキャッチした情報をどう受け取るかで、その後の結果に大きな違いが出ると思います。