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朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)


首相官邸を中心に、安倍首相の顔色だけをうかがう政治手法は、現下の最重要課題である新型コロナウイルス問題でも様々な軋轢を引き起こしている。2月末に突然決まった全国一斉休校措置は、政府専門家会議も文部科学省も知らない場所で決まった。政府の「Go To Travelキャンペーン」が7月22日から前倒しで実施されることになった際は、観光業者から陳情を受けた国土交通省が首相官邸との間でだけ決め、厚生労働省は外されていた。自民党のベテラン議員は「コロナ問題で世論の反発が広がっているのに、独善的な政治手法を改めないからこうなる。永田町ではもう、次の首相は誰がなるのか、というひそひそ話があちこちで始まっている」と語る。

首相官邸の政治体力がどんどん弱まるなか、激烈な状況に立ち至っている米中関係のなかでどうやって生き残っていくのか。

日本は国際社会のなかで、「片手で握手し、片手で銃を突きつけ合う」という行動が苦手な国だとされてきた。中国も尖閣諸島周辺海域での圧力を強める一方、平気で外交ルートでは「習近平主席の訪日を是非成功させましょう」と持ちかけてくる。だが、日本はあるときには「日中友好」が世論の大勢を占めていたかと思えば、今は「習近平訪日などとんでもない」「早く、中国を脅威と認めろ」という対中強硬論が勢いを増している。

これまで、日本の官僚たちは、左に右にと、急速に振れる世論や政治家の声を前に、必死に対中戦略の舵を取ってきた。例えば、日本が弾道ミサイル防衛などの整備を進めるとき、「これは北朝鮮の脅威に備えたもので、中国を念頭に置いたものではありません」と言い続けているのには理由がある。いったん、日本が中国を脅威だと認めてしまえば、尖閣周辺などでの中国の行動が激化するほか、日本に強力な軍拡競争を仕掛けてくる可能性があるからだ。中国はすでに経済力で日本を上回っているうえ、共産主義国家の特徴を生かして民生を後回しにし、軍事分野に予算を集中させることもできる。そうなれば、ただでさえ、経済的に疲弊している日本の体力がもたない。

7月下旬、在京米国大使館のヤング代理大使が北村国家安全保障局長と会談した。ヤング氏はテキサス州ヒューストンの中国総領事館閉鎖など、米国の一連の対中政策を説明した。具体的な要求こそなかったが、日本がより明確なシグナルを中国に投げかけることを期待する考えを示したという。日米関係筋は「明確なシグナル」について、「習近平主席の訪日がキャンセルされれば、米国はもちろん喜ぶだろう」と語った。予断を許さないが、8月31日から9月1日にかけては、主要7カ国(G7)首脳会議を開く方向で調整が進んでいる。トランプ米大統領はそこで、日本の「明確なシグナル」は何なのかと尋ねるだろう。

政府関係者の1人はこう語った。「もうこうなったら、いかにやっているフリを示すかですね」。それしか思いつかないのが、今の日本が置かれた厳しい状況の現実を示している。

文=牧野愛博

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