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前出の製薬会社も、自動車メーカーも、長年同じ事業を続けてきたからこその強い固定概念が、新たなアイデアの妨げになっているとわかる。それはプロダクトだけでなく、組織内の人間関係でも同じだ。特に人間関係では、『どうせ聞いてくれないのだろう』と関係性まで固まり、変化が生まれなくなる。

「Whyは、『どうやって成し遂げたいのか(プロセス)』『何を生み出したいのか(ゴール)』『どんな世界にしたいのか(ビジョン)』の3つで形成されています。この3つを明確にして、本当に解くべき課題を見抜くことこそが、問いのデザインなのです」

ファシリテーションとは、問題を再定義する役割


こうした議論の要となるのが、ファシリテーションだ。しかし、ここにも誤解があると安斎は話す。

「ファシリテーターという言葉自体は浸透していますが、『付箋をペタペタと貼り、会話を盛り上げること』『議論が噛み合わなくなったら仲裁する役』と思われがちです。しかし、ファシリテーターは固定概念にはまってしまった問いを追求し、取り組むべきポイントを明らかにするのが本来の役割。そのために、問題を再定義し、チームで話し合える問いをつくって投げかける。つまり、ファシリテーションでは『問いのデザイン』自体を体系化する必要があります」


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これまでにも、斬新なアイデア発想方法や問題発見のためのフレームワークは登場していた。その数は決して少なくないが、それでもなお、さまざまな企業が「アイデア発想法」を手探りし続けるのはなぜだろうか。安斎いわく、「根本原因に目を向けず、枝葉部分にフォーカスしていることが原因にある」という。

「やりがちなのは、イノベーションを起こすために会議や議論のやり方を手っ取り早く“輸入”すること。根本的な問題に向き合わないままHowに手を出してしまうため『あの方法はダメだった』となる。なかでも一番の被害に遭っているのが、デザイン思考という言葉。そのせいか『次のデザイン思考はこれだ!』が飛び交っています(笑)。

問いが大事であることは、これまでにも言われてきました。しかし、その部分にフォーカスし、体系化する人はいませんでした。僕自身もいざ体系化に取り掛かってみたものの、出版物としてまとめるまでに5年かかっています。『どうすればいい問いができるのか』『いい問いとは何か』をアカデミックに答えを出すのは、簡単ではありませんでした」

『問いのデザイン』では、あくまでも根本にある課題を発見するために「何を問うべきか」のほか、どんな順番で何の問いかけをするかといったプロセス設計も明示。議論に参加したメンバー全員が、課題を自分ごと化し、活発に意見を言い合える場を目指す。

「設定した課題について、ただ単にみんなで話すだけだと自分ごとにならない可能性があります。たとえば、いきなり「組織のビジョンとは?」と問うのではなく、まず"私"を主語にして自分自身の経験を問い、さらに未来の妄想を問い、その上で組織のビジョンを問う。コンビネーションを変えるだけで、話し合いは豊かになる。問いのデザインとは、『課題のデザイン』『話し合いのデザイン』を総合したものと言えます」

文=福岡夏樹 写真=小田駿一

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